このサイトのカルチャーは、単にディープかつショッキングな仕方でミソジニー(女嫌い)であるのみならず、自らがオタク(ナード)であり、男性アイデンティティの「ベータ版」であるとして嗤う自己卑下的なものでもあった。このカルチャーを示すほかのものとして、戦争を題材にしたゲームや、『ファイト・クラブ』や『マトリックス』のような映画も含まれる。レジストレーションもログインも必要なかったので、ほとんどすべての書き込みは「アノニマス(名無し)」というユーザーネームでなされた。

 匿名性のカルチャーは、ユーザーたちが自分たちのもっともダークな思考へと向かう環境を助長した。キモいポルノグラフィー、内輪ネタ、オタクの隠語、血生臭いイメージ、自殺的、殺人的、あるいは近親相姦的な考え、レイシズムやミソジニーは、この奇妙なヴァーチャル空間での実験場によって作られた環境の特徴であるが、大部分のものは人を笑わせる類のものだった。

 プールは4chanのことを「ミーム工場」と呼んでいたし、実際それが数え切れないほどのミームを作り出し、メインストリームのインターネット・カルチャーへと流れ込んでいった。初期のもっとも有名な例は、おそらく「ロルキャット(LOLcat)」だろう。

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(画像:Wikipediaより)

 猫の画像を用いたイメージ・マクロで、「リックロール」――見た目はまじめなコンテンツへのリンクだが、クリックするとリック・アストリーが歌う「ネヴァー・ゴナ・ギブ・ユー・アップ」のビデオクリップへと移動してしまう仕掛け――がほどこされている。

11歳少女に自殺をそそのかすことも…

 4chan/b/のユーザーは、2008年のタイムズ誌のオンライン投票でクリス・プールを年度代表人物にするような運動を進め、2010年には無作為に選んだ11歳のジェシー・スローターを選出しようとする集団でのネットいじめをおこなった。ユーザーたちは彼女の名前と住所をつきとめ、嫌がらせをして、彼女がギャングスターラップを真似て喋るふざけた動画を投稿したときに、自殺するようそそのかしたりした。

 彼女の父親が狼狽した娘を守るために動画を投稿し、サイバーポリスを呼ぶと脅しても状況が改善されなかったのは驚くべきことではない。ユーザーたちの感情的な幼稚さに従うなら、ネット・カルチャーの知識が欠落していることは、4chanの上でいかなる残酷な仕打ちを受けても仕方ない、ということになる。

 それほど残酷ではないユーザーたちの集団的ないたずらとしては、「お誕生日作戦(Operation Birthday Boy)」がある。ひとりの年取った男が「人は誕生日パーティーを望んでいた」とインターネット上で告知したときのことだ。孤独な老人の訴えに感銘を受け、ユーザーたちはその男の名前や住所、電話番号を特定し、数百ものバースデイカードを送り、ケーキの注文やストリップ嬢の派遣をしたのである。

 ニューヨーク・タイムズ誌では、マタシアス・シュワルツが4chan/b/を次のように説明している。

4chanのほかの板――旅行板、フィットネス板、ポルノグラフィー各種の板――にいる匿名の住人たちは、/b/板の住人たちを「豚野郎(/b/tard)」と呼んでいる。邪悪さ、狭量さ、トラフィックの量によって意見を変える点などから考えてみても、/b/板のカルチャーはほとんど前例がない。/b/板の書き込みは、高校のシャワールームの一角のような、猥雑なパーティーラインのような、あるいは投稿されていないが若者言葉すぎて理解できないスラングに満ちたコメントだけがあるブログのようなものだ。

次の記事に続く レイプや殺人の脅迫も…ネットの世界から「女性排除」を目論む「アメリカの怖い集団」の正体