「わたしはどうやら、男性がレイプしたいと思うにはあまりにも醜いらしく、ある道具をどうのように私のさまざまな開口部に押し込むべきかを正確に説明する生々しい描写を読みました」――アメリカのネットを荒らす、ウェブ上の過激な女性嫌悪主義者(ミソジニスト)の実態とは? 新刊『普通の奴らは皆殺し インターネット文化戦争 オルタナ右翼、トランプ主義者、リベラル思想の研究』(Type Slowly)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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ポリコレや多様性に反対するネットのある勢力

「ケック(kek)」についてのオルタナ右翼の言及は4chan上で始まり、それはマルチプレーヤー・ビデオゲーム『ワールド・オブ・ウォー・クラフト』についてのプレイヤー同志のチャットでは「lol」と翻訳された。他方で、マット・フュリーの漫画『ボーイズ・クラブ』に登場する「カエルのペペ」は、ネット上の内輪の悪ふざけミームの雰囲気を圧縮したものであった。ケックはカエルの頭をした男の姿で表象される古代エジプトの神であり、「ケック教」と「ケックを崇めよ(praise Kek)」は、オルタナ右翼たちのアイロニーに満ちた宗教性を述べている。

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 しばしばニヒリズム的でアイロニカルな4chanカルチャーをより広いオルタナ右翼的流れと接続したものとして、両者は共通してポリティカル・コレクトネスやフェミニズム、多文化主義などに反対している点と、両者ともに匿名性とテックの無責任な世界に侵入している点があげられる。

 アメリカにおける、彼らの世界を侵害する女性に対する組織化された攻撃の初期の事例としては、技術畑のブロガーでジャーナリストでもあるキャシー・シエラを標的としたものがあった。シエラはサウス・バイ・サウスウェスト・インタラクティヴ・フェスティバル(South by Southwest Interactive Festival)のキーノートスピーカーで、著書もベストセラーだった。読者からのコメントをたしなめる呼びかけを支持したときに、彼女へのバックラッシュが爆発した。

 当時シエラの行為はインターネットの絶対的な自由を支持するリバタリアン的なハッカーの倫理を侵害するものとみなされた。シエラの事件以来、そうした呼びかけはスタンダードなものになった。シエラのブログへのコメントが、集団で彼女への嫌がらせや脅迫をはじめて、シエラのような女性たちもレイプや殺人の脅迫を普通に受け取るようになった。

 家族や住所の個人的な詳細がウェブ上に投稿され、悪意に満ちた返信には、首に縄がついた彼女の写真や、銃の照準が向けられた顔の写真、あるいは猿轡をかまされた下着姿の彼女の写真など、フォトショップで加工された画像がつけられていた。

写真はイメージ ©getty

 シエラに対する個人攻撃はあまりに過激なものだったので、彼女は自分のブログを閉鎖して、人前で話す仕事から引退する必要を感じた。彼女はストーカーたちが脅迫を続けるかもしれないとブログに書き、自分が公の前での仕事から引退する理由を説明したが、それがまた、ネット上でのギークたちによる新たな憎悪を生み出し、爆発した。