大阪に対するアウトサイダーとして
――第一章から、「大阪で育ったのに大阪になじめない男」・吾郎が出てきますね。彼が、「漫才師として成功して家族にいい思いをさせたい」と語るヒデヨシと、家族を支えるためにキャバレーで働く奈津子に接して、浪花節を感じるシーンが印象に残ります。
遠田 わたしはずっと「ニュータウン」と呼ばれる地域で育ちました。下町と違い、色々な地域から人が移り住んできて成り立つ場所。吾郎のように、コテコテの大阪カルチャーに根っからなじんでいるわけでなく、アウトサイダー的な目線があるのは、そういう地域で育ったからかもしれません。
そんなアウトサウダーから見ると、大阪というのは「浪花節」を発揮しやすい近さがある場所なのだと思います。東京ほど広くはなく、主要な都市がコンパクトにまとまっている。だから、ミナミを歩いているとよくロケ隊に会います(笑)。関西ジャニーズの子や芸人さんがその辺をぷらっと歩いている。本書でも、架空の天才漫才姉妹・チョーコハナコというコンビを出していますが、彼女らと一般人の近さこそが、大阪が持つ「近さ」なのです。
その「近さ」があるからこそ、人が困っていたら目に入るし、「あめちゃんいるか?」と話しかけたくなる。それが暑くるしいと思われるのかもしれませんが(笑)。
――「その街独特の雰囲気」が描かれた名作は枚挙にいとまがありませんが、個人的に大阪、北海道などの街はその匂いが特に濃くなるような気がします。大阪の場合、その匂いを発しているのは、一歩を踏み込む人間の「近さ」なのかもしれませんね。
例えば、第五章で登場する高校生の女の子・翼と、チョーコハナコ。血のつながっていない養父との関係に悩む翼は、チョーコハナコが同じような環境で育ったことを聞き、相談に乗ってもらえないかと伝手をたどります。普通だったらそんな一高校生によくしてやらないのでは……と思えますが、彼女らは翼を放っておかないんですよね。
遠田 チョーコは格好つけたイイ女ですよね。ふらっと老舗カフェにいるような「近さ」があるのに、かといって誰ともつるまない「孤高さ」もある。みんながどこかしらで彼女らに影響を受けています。