ホンダ自社株買いの覚悟

 日経が報道した12月18日の日産株はストップ高になり、ホンダ株は下落した。これは株式市場が、経営統合は業績悪化の日産をホンダが救済するためと見たからだ。

 統合交渉入りの発表と同時に、ホンダは最大で1兆1000億円、発行済株式数の約24%に当たる自社株買いを行うと発表。この額はネットキャッシュ(手元の現金から有利子負債を引いた額)の約3分の1に相当する。

「三部社長も自社株買いの規模には反対で、取締役会でも賛否両論が出たが、経営統合入りでさらに株価が下落することを恐れた藤村英司・最高財務責任者(CFO)が強く推し進めた」とホンダ関係者は話す。

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経営統合に向けて、ホンダ・日産・三菱自動車の3社で記者会見を開いていた ©時事通信社

 この自社株買いでホンダ株は翌日に14%上昇。業績不振の日産救済というイメージによる株価下落防止と、その日産と統合してもホンダの財務状況は安泰と、世間や市場に示す大きな効果があった。

 この巨額の自社株買いは、「結婚」に向けたホンダの覚悟と言える。日産もしっかりリストラをして覚悟を示せ、と迫っているのだ。

 ところが、当の日産は内田氏のリーダーシップの欠如から迷走している。そもそも11月7日に公表したターンアラウンド計画で本当に日産は再生できるのか、との見方が日産社内外から出始めているのだ。

 ある幹部は「社員9000人や生産能力20%の削減では足りない。製造部門や間接部門も人が余っている。全社員の30%に当たる4万人規模の削減が必要だ。99年にゴーン氏が主導した『リバイバルプラン』では14%に当たる2万1000人を削減したが、最低でもそれぐらい削減しないと、今の日産の生産状況では社員を養えない」と嘆く。

 ゴーン氏が経営者としての晩年、無謀な拡大戦略に走った結果、日産の生産能力は18年に720万台にまで膨らんだ。これを20年4月から24年3月までの事業構造改革計画「日産NEXT」などにより現在は約500万台にまで削減。しかし、24年度の実際の生産は320万台にとどまり、生産設備の4割ほどが余っている。

※本記事の全文(約9000字)は「文藝春秋」2025年3月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(井上久男「日産“鈍感力”社長にいら立つホンダ“暴れ馬”社長」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・ルノー本社を訪れた男
・なぜ経営不振の日産を
・ホンダ単独では生き残れない
・経産省とみずほに根回し
・「英語ができるバカ」
・ルノーが内田氏を選んだ理由
・フジテレビの光景と重なる