ASDの特性ゆえに適応できず半年で退職
このようなMMさんの問題点は、ASDの特徴を反映している。「言葉のニュアンスがわからない」「非言語的なコミュニケーションが苦手」「曖昧な表現が理解できない」などはASDにおける問題点として広く指摘されているものであり、これらによって彼女は職場になかなか適応することが難しかったと考えられる。
おそらくMMさんは、学生時代までは、ASD的なコミュニケーションの問題を持ちながらも、クリティカルな立場に置かれることはなかったし、知的レベルは高かったので、それなりに乗り切ることは可能であった。
どんな人でも、就職した当初は勝手がわからず右往左往するものであるが、周囲の人や先輩の動きを「まねる」ことにより、要領を身に付けていく。しかし、ASDの特性を持つMMさんには、そのような学び方はできず、時間が経過しても、自分で処理できることは限られていた。彼らは「人」に対して関心が薄く、小児期においても成人してからも、周囲の人たちの様子をみて、そこから情報を得ることが困難なのである。
MMさんはこの病院を半年あまりで退職した。その後別の医療機関への転職を繰り返している。定型的な業務はしっかりとこなせるが、やはり臨機応変の対応ができなかった。特に患者が高齢者で指示通りの行動をしてくれないときなどは、何をすればいいかわからなくなってしまい、その場でフリーズしたり、過呼吸の発作もみられた。時には理不尽な怒りを患者に向け、激高してしまうこともあった。
MMさんは抗不安薬の服用によって一時的に安定はするが、長期的に仕事を継続するためには、自らのASDの特徴を自覚し苦手な状況にどのように対応したらよいか十分に検討することが必要である。もっとも、MMさんは仕事での失敗を繰り返す中で、ある程度自分の特性について認識するようにはなってきた。しかしながら自らの問題点にしっかり向き合うことはなかなか難しいようで、現状では比較的単純な定型的な事務作業を継続している。
