また精神的にも不安定となり、高校2年の2学期、「本当は死にたくないのに、死んだほうがいいと思う気持ち」がふらっと出てしまい、ベランダから飛び降りようとしたところを父親に保護された。この直後、近隣の精神科に約2か月入院となっている。このため高校は留年になった。
興味分野への大学進学をきっかけに体調が回復
2度目の高校2年生は、見るからにつらそうだった。本人は学校がきついとは言わなかったが、よく発熱して休んだ。発熱の原因ははっきりしなかった。家で両親、特に父親と衝突することが頻繁になった。父親は社会的な地位のある人で、広告会社の管理職だったが、多忙で彼女の話をしっかりと聞いてくれなかった。
専門外来を受診してからはADHDの治療薬と睡眠薬の処方を継続したが、「眠れない、悪夢をみる」という訴えが頻繁にみられた。処方を変更しても、彼女の訴えに変化はなかった。今から思えば、発熱も睡眠障害も学校と家庭のストレスが原因の症状だったと考えられる。発熱については総合病院の内科を受診したが、身体的な異常はみられなかった。
それでも高校の文化祭や修学旅行などの学校行事にはしっかり参加していたが、高2の3学期には疲弊してしまい、精神科に短期の入院となった。3週間ほどの入院であったが、退院後には登校できなくなった。そのため高校は退学し、別の通信制の高校に転校することを本人が決めた。通信制に移って精神的には安心した様子であったが、体調はなかなか改善しなかった。長い期間、原因不明の発熱と睡眠障害が持続した。
高校を卒業後、INさんは、夜間の美術系の専門学校に進学した。もともと興味のある分野であったことに加えて、夜間という点が幸いし、3年間継続して通学することができた。それでも体調は安定せず、夜間の悪夢と中途覚醒、疲労感などの訴えは続いていた。
彼女が本調子になったのは、専門学校を卒業して美術系の大学に進学してからのことである。授業は朝からあり、通学ができるかどうか周囲は心配したが、自ら進んで規則正しい生活を送るようになり、表情も生き生きとして大学生活を楽しめるようになった。まだ在学中であるが、単位を落とすことなく、勉強についても順調に経過している。
このINさんのケースは、本来は高校生の項目に記載するのが適切だったかもしれないが、高校在学時にメンタルダウンし、6~7年という長い経過の中で回復に至ったことからこの章に含めた。
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
