資本主義は市場だけでは自立しえない

 ところが米国の会社システムは、株主利益を最大にするには経営者も株主にすればよいとして、株式オプションを中核とする報酬制度を導入しました。不幸にもそれは経営者を忠実義務から解放し、会社をみずからの利益追求の道具とする機会を与えただけでした。そして、その機会に乗じて、大会社の経営者は平均的労働者の350倍にまでその報酬を吊り上げたのです。アメリカでは上位1%の高所得者層が全所得の20%を手にしていますが、その内訳を調べると、資本所得の割合は小さい。起業家の所得も大きいのですが、それ以上に大きな割合を占めているのは他ならぬ経営者の報酬なのです。米国の不平等化の元凶はまさに株主主権論という誤謬にあるのです。

岩井克人氏 ©文藝春秋

 ところで、自由放任主義が誤謬であるならば、資本主義経済は市場だけでは自立しえません。政府や中央銀行の規制や介入、社会保障や相互扶助などと組み合わさってはじめて安定的に機能することになります。資本主義それ自体も、市場とそれ以外の制度をどう組み合わせるかによって「多様性」をもつことになるのです。

 株主主権論が誤謬であるならば、会社とは株主の利益のための道具ではなくなります。それは人的組織としての自律性をもち、株主だけでなく、従業員や他の関係者の利益、さらにはSDGsのような社会的貢献すらもその目的の中に含むことが可能になります。会社システムそれ自体も、その目的をどう設定するかによって「多様性」をもつことになるのです。

※本記事の全文(約10000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(岩井克人「2つのディストピア 米中に呑み込まれるな」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・クズネッツの法則とモンテスキューの法則
・「希望の星」から転落した中国
・習近平vs.ジャック・マー
・日本の「世界史的な使命」
・近代の多様性を示せ

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