吉原の伝説の花魁「五代目瀬川」を身請けした鳥山検校とはどんな人物か。歴史評論家の香原斗志さんは「男性の盲人の互助組合・当道座で最高位にある人物だった。彼は、弱小の旗本や御家人に対して法外な利息での貸し付けを行うことで財を成した」という――。
おもわず心が震えたた五代目瀬川と蔦重の別れ
小芝風花が演じる五代目瀬川が、盲目の富豪、鳥山検校(市原隼人)に身請けされる日がいよいよ近づいてきた。ついにその日を迎えると、蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)は松葉屋に瀬川を訪ね、自分が完成させたばかりの錦絵本『青楼美人合姿鏡』をはなむけに手渡した。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第10回「『青楼美人』の観る夢は」(3月9日放送)。
花魁たちを描いたこの錦絵本には、吉原を去る瀬川も描かれていた。蔦重は瀬川にいった。「俺ぁここを楽しいことばかりのとこにしようと思ってんだよ。売られてきた女郎がいい思い出いっぺえ持って、大門を出てけるとこにしたくてよ」。それこそが、自分と瀬川がいだいてきた夢じゃないのか、というのだ。
「俺と花魁(瀬川のこと)をつなぐもんは、これしかねえから。俺ぁその夢を見続けるよ」という蔦重の言葉に、「そりゃあまあ、べらぼうだねえ」と返した瀬川は、涙をぬぐった。ジーンとさせられる場面だった。
「売られてきた女郎が」と語っている蔦重は、女郎たちが人身売買の被害者であると認識している。だが、この時代、どう認識しようと、一介の町人には女郎たちを救う手だてなどなかった。せめて「楽しいばかりのとこにしよう」というのは、蔦重の立場でできる最善のことだっただろう。むろん、女郎にできることもそれ以上ではなかった。
「俺と花魁をつなぐもんは、これしかねえ」というのが、時代状況を考えても理に適っているから、なおさらジーンとさせられるのだろう。
「夫」の化けの皮
その後、白無垢の豪華な花嫁衣裳に着替え、最後の花魁道中に臨んで、晴れ姿を吉原に詰めかけた人々に見せたあと、瀬川は大門の外で待っている鳥山検校のもとに向かった。