4年半余り前、和歌山の静かな海で、2人の男性がコードで結ばれて入水した。彼らは、ある“サークル”の信者だった。頂点に坐するのは狂気の「女占い師」。異様な集団生活と乱婚の果てに、教祖と信者が見た景色とは。
当初は自殺として処理されたが…
発見したのは、夏の潮風を浴びながら早朝のランニングに勤しんでいた地域の住民だった。美しい砂浜に2人の男性が仰向けの状態で倒れ、寄せては返す波に打たれていた。
2020年8月1日午前5時半頃、和歌山県有田郡広川町の樫長海岸。波打ち際で並ぶように絶命していたのは、会社員の寺本浩平さん(当時66)とアルバイトの米田一郎さん(当時51)だった。
「ともに服を着たまま、寺本さんの左手首と米田さんの右手首がマイクコードで繋がれていた。司法解剖の結果、死因は溺死。2人の体内からは鎮痛剤成分が検出された」(捜査関係者)
2日後の8月3日、和歌山県警に提出された寺本さん名義の遺書には、こんな言葉が綴られていた。
〈一郎さんと旅立つ私をどうぞお許しください〉
〈コロナ不況で全く仕事が取れなくなり、私の夢は打ち砕かれました〉
文字が印刷された用紙の文末に、手書きされた2020年7月30日の日付と寺本さんの名前があった。
「当時、和歌山県警は『事件性は低い』と判断。自殺として処理した」(同前)
だが、2人の死は入水自殺に擬装された“事件”にほかならなかったのだ。