世界的巨大ターミナルから1日に数人しか使わないような小駅まで、日本には9000もの駅があるという。日夜乗っている電車の終点もそんなたくさんの駅のひとつだが、えてして利用者の多くはその手前の「いつもの駅」で下車してしまう。

 そうした様々な終着駅を歩き続けた鼠入昌史氏の著書『ナゾの終着駅』より、一部を抜粋して掲載する。

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 阪急電車は、大阪梅田駅をターミナルとして三方向に分かれてゆく。東に向かうのは京都線、西に向かうは神戸線。そして、北を目指して走るのが宝塚線だ。どれもこれも同じような阪急マルーン、あずき色の電車が走っている。

 その中で、どれがいちばん“阪急らしい”のか。だいぶ無粋な問いであることは承知の上で、少し考えてみよう……。と、沈思黙考してみたが、答えはすぐに出た。やっぱり、宝塚線ではないかと思う。

 というのも、まず第一に宝塚線は阪急の創業路線である。1910年に当時の箕面有馬電気軌道によって開業し、同時に沿線の宅地開発を進めていった。

 ターミナルの梅田には百貨店を開き、終点の宝塚には温泉を中心としたレジャー施設も整えた。1913年には宝塚唱歌隊(現在の宝塚歌劇団)が誕生する。そうして阪急が道筋をつけたとされる、沿線開発と一体化した鉄道経営というスタイルが確立されていった。

 そんな歴史を抱えているのだから、宝塚線はまさしく阪急そのものといっていい。

まさしく「阪急そのもの」ともいえる宝塚線

 路線としては京都線や神戸線と比べれば距離も短いし、列車種別も日中は急行と各駅停車だけというシンプルなもの。それでも、沿線の空気感を含めてザ・阪急。そんな路線が、宝塚線なのだ。

そもそも「雲雀丘花屋敷」は何と読む?

 そして、やってきたのが雲雀丘花屋敷駅である。阪急宝塚線は、日中は急行が宝塚行き、各駅停車が雲雀丘花屋敷行きに分かれている(ちなみに急行は各駅停車の9分後に梅田駅を発車し、途中で追い抜くことはない)。

梅田からは「急行・宝塚」行きと「普通・雲雀丘花屋敷」行きが交互に走る

 だから、宝塚線ユーザーに限らず、阪急電車を愛用している人なら決まって「雲雀丘花屋敷」という漢字6文字のこの駅の名を目にしたことがあるはずだ。ちなみに読み方は、「ひばりがおかはなやしき」。

 私もかつて京都に住んでいたことがあって、阪急電車はよく使っていた。宝塚線に乗る機会はめったになかったけれど、「雲雀丘花屋敷」の行き先表示は梅田駅でよく見かけていた。その表示を見て、心の中で「うんじゃく……?」などと首をかしげた記憶がある。

 やたら画数の多い漢字6文字の難読終着駅、なんとも気になる存在なのだ。

いざ「雲雀丘花屋敷」に到着。何があるのだろうか?

 というわけで、実際に雲雀丘花屋敷駅を訪れた。阪急宝塚線の各駅停車で豊中や池田といった北摂の住宅地を抜けて、約30分で雲雀丘花屋敷駅に到着する。乗客を全員降ろした電車はそのまま駅の西側にある車庫に向かって去ってゆく。