吹奏楽部はブラックか
――部活をテーマにした青春小説や青春漫画の書き手にとっては、とても大きな問題ですね。
額賀 「吹奏楽部はブラックだ!」という意見やニュースを、この数年でよく聞くようになりました。『風に恋う』を書く上でも、かなりチェックしましたね。一方的な意見だなと思うものもあれば、思わず頷いてしまうものもありました。それを「私達のやってきたことをブラックと言うなんてけしからん」と一方的にはねつけるだけでは、何も解決しないと思うんです。吹奏楽のみならず、その分野や競技を愛しているからこそ、抱えた問題と向き合わないといけない。「これまでずっとこうだったから」「こうしないと結果を出せないんだ」と向き合うことを拒絶し続けたらどうなるか。日大のタックル問題は、ある意味その答えだと思います。
日大のタックル問題が発生したのは5月で、すでに『風に恋う』の原稿はほぼほぼできあがっていたのですが、一連の報道を見ながら、最後の最後に手を加えました。
また、プルーフ(作品を発売前に書店やメディアの人に読んでもらうためにゲラ段階の原稿を簡易印刷製本したもの)の表紙に、最初は「『高校時代が一番輝いていた』なんて言う大人になるなよ」というコピーを入れていたんですが、今回の日大の騒動を見て「俺は、ブラック部活に洗脳された馬鹿な高校生のなれの果てですか」という作中の言葉に入れ替えました。
『風に恋う』は、青春吹奏楽小説です。これまで私が書いてきた作品の中で一番のものが書けたと思っています。吹奏楽の楽しさとか切なさとか、一つのことに懸命に打ち込む高校生の姿だとか、私が好きな青春小説の要素を余すことなく詰め込みました。しかし同時にこれは、青春小説を書いているゆとり世代の作家としての、日本の部活動とか、日本人の働き方、頑張り方に対するメッセージだと思っています。
ブラック部活、やりがい搾取が問題になっている時代だからこそ、「今読まないといけない小説だ」と思っていただけたら嬉しいです。