所属事務所によると、志村は愛煙家だったが、2016年に肺炎で入院したことがあり、以来、禁煙していた。喫煙が新型コロナウイルスによる肺炎の重症化にどの程度影響するのかははっきりしないものの、タバコによる体への悪影響は禁煙しても一定期間残ると考えられる。世界保健機関(WHO)は喫煙がコロナの重症化リスクを高めるとして、禁煙を呼びかけていた。

 コロナで入院すると、家族が見舞いに行けないことも大きな問題だった。亡くなってからも、遺体と対面するには制約があった。厚労省によると「遺体は非透過性納体袋に収容、密封することが望ましい」とされた。「顔を見られずに別れなくてはならなくてつらい」と悲痛な表情で語ったのは志村の兄。志村の遺体は、袋に密封されたまま火葬されたというが、人の命はそんなに軽いものなのだろうか。

「志村早すぎるよ」

 つらかったのはドリフのメンバーも同様だった。

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「ドリフの宝、日本の宝を奪ったコロナが憎いです」というコメントを出したのは加藤茶。仲本工事(1941-2022)は「ドリフも順番に逝く年になったとは思ったけど、一番若い志村が長さん(いかりや長介=1931-2004)の次になるとは……。非常に悔しいです」と話した。

 高木ブーは「志村早すぎるよ、俺より先に逝くなんて。(中略)また一緒にコントやりたかったのに」とのコメントを寄せた。

志村さんが亡くなって2年後、文藝春秋のインタビューに応じたドリフターズの3人 ©文藝春秋

 実はこのころ、志村は初の主演映画「キネマの神様」の撮影が予定され、私も取材の準備を始めていた。2020年1月24日、松竹から正式に発表があったのを受け、社会面に記事を書いた。

「松竹は24日、山田洋次監督(88)の89作目となる新作映画『キネマの神様』を製作すると発表した。コメディアンの志村けんさん(69)と人気俳優・菅田将暉さん(26)がダブル主演する。原田マハさんの同名小説が原作で、映画撮影所で働く人々の夢や挫折、その後の人生を描く。松竹によると、志村さんが映画に出演するのは『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)で炭鉱労働者を演じて以来、21年ぶり(註:年齢は当時)」

 山田監督は役者としての志村の才能を高く評価し、「ぜひ僕の映画に出てほしい」と志村にお願いしていた。担当プロデューサーが何度も志村の元を訪れ、直談判。志村はなかなか首をタテに振らなかったが、ようやく実現した映画だった。

 悲報を聞いた瞬間、全身が震えるほどの驚きだったという山田監督は、こんなコメントを発表する。

「『キネマの神様』の出演辞退でがっかりしていたぼくにとって、言葉を失うほどの衝撃です。志村けんさんは日本の喜劇の世界の宝でした。その存在がどれほど貴重だったかを、彼が少しでも自覚して健康に留意してくれていたら、と彼の早死が口惜しく、残念で残念で仕方ありません」

日本だけでなく、世界中で愛された志村けんさん ©getty

 数々の有名人の死に接してきた山田監督だが、これほどの無念な思いでコメントを寄せたことはなかったのではないか。志村の訃報は国境を越え、海外にも伝えられた。

次の記事に続く 「ストレス発散がすごく下手なタイプ」夢に出てきたギャグまでメモ…日本中から愛されていたのに“孤独だった”志村けん(享年70)の芸能人生

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