「54台もの防犯カメラで、住民は24時間行動を監視されています」住民から聞いた耳を疑うような話
しかし、日を追うごとに高田の話が頭から離れなくなった。取材者としての勘と言うべきか、後ろ髪を引かれるようなものを感じていたのかもしれない。
さんざん情報を提供してもらった高田への借りを返す意味も込めて、住民と会う約束を取りつけた。20年の梅雨(つゆ)時期のことだ。のちに私は、自身の見識の狭さを酷(ひど)く恥じることになる——。
新宿駅から徒歩7分ほどに位置する、某オフィスビル。不動産関係の事業者がテナントに入るワンフロアは、18時を過ぎても人の出入りが激しかった。通された個室で初めて顔を合わせた住民の佐藤彰(42)から聞かされたのは、耳を疑うような話だった。
「マンションには54台もの防犯カメラが設置されており、住民は24時間行動を監視されています。自由とはほど遠い生活を余儀なくされているのです。まるで、独裁国家で暮らしているような。理事長を筆頭とした特定の理事たちが、過半数の委任状を盾に総会での議決権を独占し、やりたい放題やっている。
そして、管理規約にない自分たちが定めた謎ルールをどんどん追加していった。もはや住民の怒りは限界まで来ている。ただし、もうこれ以上どうしていいのか分からないのです……」
何の前触れもなく実行された約1.67倍の管理費値上げ
佐藤の話では、18年に何の前触れもなく実行された約1.67倍の管理費値上げを発端に、一部の住民たちは理事会に不信感を抱いた。総会で意図を問うべく質疑をしてもはぐらかされるばかりで、一向に明確な理由は明かされない。
それどころか、質問者に対して人格攻撃ともとれる発言があったという。以降、義憤に駆られた有志の区分所有者たちが立ち上がり、住民運動を展開しているというのだ。
佐藤は理路整然と経緯を説明しながらも、時折怒りをにじませた。詳しくは後述するが、この日、語られた事例には以下のようなものがある。
・身内や知人を宿泊させると転入出費用として10,000円を請求された
・平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない
・夜間、心臓の痛みを覚えて救急車を呼ぶも、管理室と連絡が取れず、救急隊が入室できなかった
・給湯器はバランス釜のみで、浴室工事は事実上不可
・「Uber Eats」などの配達員の入館を拒否される
・購入した部屋を賃貸として貸し出そうとすると、外国人や高齢者はダメだと、管理組合から理不尽な条件をつきつけられた
・マンション購入の際も管理組合と面接があった
・引っ越しの際の荷物をチェックされる
「何とかなりませんかね」
佐藤が住民の窮状を訴え続けること2時間。内容もさることながら、その熱量と険しい表情が印象に残った。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。
