「秀和幡ヶ谷レジデンス」のあまりに“異常な”管理体制
高田が語る“とんでもない”マンションの名称は、「秀和幡ヶ谷レジデンス」という。秀和レジデンスは、ヴィンテージマンション界隈では広く知られた存在でもある。
青い瓦屋根に、白のうろこ塗り壁、鉄製柵のある建築は“南欧風”とも言われ、根強い人気を誇るシリーズのマンションだ。秀和の名前は知らずとも、特徴的な外観を記憶している都内在住者も多いのではないか。
1964年、東京五輪の年に竣工した「秀和南青山レジデンス」を皮切りに、70年代の高度経済成長期に全国に広がっていった。全国134棟のうち、東京23区内には実に107の秀和マンションが現存し、多くが駅近の好立地に構えている。早い話が、そのデザイン性や利便性から熱烈なファンを持つマンションシリーズというわけだ。
幡ヶ谷にしても、新宿駅からはわずか2駅。京王線の幡ヶ谷駅から徒歩4分と、抜群のアクセスを誇る。約300戸に及ぶ巨大マンションである幡ヶ谷は、秀和シリーズの中でもとりわけ大型であることでも知られていた。
話を聞き進めると、高田はマンションの区分所有者の一人と顔見知りだった。そして、度々その管理体制について相談を受けていた。あまりに“異常な”管理体制に住民と管理組合の間で度重なるトラブルが勃発(ぼっぱつ)し、怪文書まで飛び交う事態になっている、と。
最初は記事化が難しいという判断だったが…
住民たちは警察や消防署、都議会議員や弁護士、行政などあらゆる機関にも相談したが、まともに取り合ってくれないのだという。そこで、マンションの住民や管理組合に取材して記事を書いてほしい、というのが高田からの用件だった。
正直なところ、あまり気乗りしなかった。住民が相談した機関と同様に、民事不介入の原則により、刑事事件にも民事訴訟ともなっていない事案を扱うことに大なり小なりリスクを感じたからだ。特に私のように、雑誌やウェブを主戦場とする末席のライターにとっては、なおさらである。
そして、当時熱心に取材していたスルガ銀行のような全国規模のニュースと比べると、どうしても地味で、スケールが小さいという印象を抱いた面もある。
実際、仕事を頻繁に共にしていた講談社の編集者である野崎英彦(のざきひでひこ)に相談すると、こんな答えが返ってきた。
「刑事事件になっているわけでもなく、大きな裁判にもなってないなら記事化は難しいかもしれませんね」