広瀬すずはエネルギー量の多い人

 広瀬すずがデビューしたのは2012年。モデルからキャリアをはじめ、俳優デビューは翌年の13年。ちょうど今年(25年)で12年になる。是枝裕和監督作『海街diary』への参加や大人気マンガの実写化『ちはやふる』主演と最初から順風満帆で、16年『怒り』(李相日監督)で陰な面の演技も引き出され、19年には朝ドラこと連続テレビ小説『なつぞら』に主演と、着々と前進してきた。彼女をさらにぐっと演技派へと押し上げた契機が舞台『Q』であったと筆者は考えている。そこで彼女の内包するエネルギーの使い方をコントロールする術を身に着けたのではないだろうか。

『片思い世界』での広瀬も、日常を楽しく過ごしているところも魅力的だが(特にバスケをやるシーンは、バスケを得意とするだけあって俊敏で生き生きしている)、物語の核となる、高杉を見つめている姿となると俄然、強烈な熱を帯びる。そして、あの予告編に使用されている表情である。いま、どちらかといえば、日常を演じることで観客が自分に重ねることができる俳優が増えているなか、広瀬のように、特別な物語のなかに生きている人をやれる俳優は極めて貴重である。

本人Instagramより

 広瀬すずはたぶん、人一倍エネルギー量の多い人なのだと思うのだ。『片思い世界』の前半、ごくふつうの日常をやっている間はそのエネルギーを出し過ぎないようにしているのではないだろうか。抑制している分、瞳のアップでは、その黒眼に何かものすごいエネルギーが満ちて見えるし、ここぞ! というときに発揮するから、「ずっとこうしたかった」のシーンが間欠泉のようにスプラッシュする。この世は愛に満ちあふれていることを観客に示してくれる、全身愛の人。真っ暗な夜が明けて、朝日が昇った瞬間のような奇跡の表情のできる人。それが広瀬すずである。

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『クジャクのダンス~』の最終回でも、リリー・フランキー演じる父親を抱きしめる場面があったし、Netflixの『阿修羅のごとく』でも病院で寝たきりの夫に寄り添う姿に深い愛情が溢れていた。これからも広瀬すずにはそういう方面を担っていただきたい。

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