和見 女性はそう思えるみたいですよね。でも、僕らの世代、いまだに男は稼いでなんぼなんです。家族を養えないと自分に価値がないように思えて、男としてのアイデンティティが見事に崩れるんです。それがめちゃくちゃ怖いんですよ。だから「奥さんの仕事が失敗すればいいのに」って足引っ張る自分もいて。そんな自分も嫌でした。

──そうだったんですね。

和見 ただ、その後、アロマ関連の物販がうまくいったりと仕事も流れに乗ってきて、徐々に新規の予約がとれないくらい忙しくなったんです。体力的にも厳しくなって、指導者側にまわろうと44歳の時にサロンを閉じました。

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 それで、さあ人生、何かやり残したことないかなと考えたとき、20歳ぐらいの時に、一度だけモデルにスカウトされたことを思い出したんです。

50歳を目前になぜ「プロモデル」を目指した?

──スカウトされた、というのは?

和見 大学時代、近所にファッションデザイナーが住んでいたんですが、その方の紹介でモデルをやらないかと誘われたことがあったんです。ただ、当時は就職氷河期真っ只中でしたし、僕は田舎の長男なので、そんな地に足ついてない仕事に身を投じられないとお断りしたんです。

──それまでもスカウトのことを思いだすことがあったんですか?

和見 ありました。華やかな世界へのあこがれ、というか。なにかにつけて思い出すんですよ。もう30年も前のことなのに、風呂に入ってるときとかに、ふと「もしあの時モデルになっていたら……」って。

──心残りがあったんですね。 

和見 そうですね。娘も社会人になったし、周囲の人間には「50歳を前にして、人生アガりました~」って言ってたんです。まわりからは「うらやましい」と言われたけど、内心味気ないというか、モヤモヤする自分もいて……。

 確かに幸せやし、もうチャレンジしないでもいいんですけど。でも「自分にも何か可能性があるんじゃないかな」って思うようになって。そうやって心に浮かんだってことは、実現できる可能性があるんじゃないか、と。

 それで「ハゲ 中年 男性 モデル」で検索して。見つけた事務所に片っ端から履歴書送り、あるモデル事務所に入れてもらえることになったんです。

現在は日本でただ1人の「ハゲモデル」として活躍中 ©佐藤亘/文藝春秋
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