「謝れ!」と、沙織さんは空に叫ぶ。父親は数年前に自殺して、他界した。それは生活がどん詰まりになったためであって、娘への取り返しのつかない犯罪行為を悔いてのことでは決してなかった。

誕生日を知らない女の子』が出版された時、沙織さんはこんな一文を寄せてくれた。

〈トラウマとは、『心・魂の傷』です。養育者から受ける魂の傷、これを背負っての生活は『恐怖』。死んだように生きる、生き地獄です。

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トラウマとして刻み込まれた記憶は日常の些細なことで脳裏によみがえり、その度に脳を侵し壊れていく。気が狂いそうな自分を抑え込む。トラウマに人生を支配されてしまう。

安心して暮らしたい。トラウマやフラッシュバックは生きるための安心感を壊し、生活の中にある連続性をストップさせ、思考、精神状態に多大な影響を与え、魂の動きを止めてしまうのです〉

あれから沙織さんはずっと繰り返されるフラッシュバックやトラウマに、ひたすら翻弄されるがままに生きてきた。フラッシュバックのたびに甦る恐怖、そして怒りにがんじがらめにされた人生。何度も、心が壊れそうになった。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)などがある。
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