その時からずっと、死ぬことだけを考えて生きてきたんです。いろいろな死に方を、高校時代は妄想しました。飛び降りは、人に迷惑をかける。首吊りも。じゃあ、冷たい海に飛び込む。ああ、死にたい人のための穴が、そこにあればいいのに……。そこに落ちれば、誰にも迷惑をかけないで死ねる穴が。
父親からの被害を防ぐためには、継母に戻ってもらうしかないと思い、大嫌いな継母に、私は「どうか、家に戻ってください」とお願いしました。
継母が家を出ていたのは2カ月ほどでしたが、その2カ月で、私の心は凍りつき、完全に死にました。
そして家を出るためだけに、好きでもない男と結婚しました。継母に「あんた、父親と同じ男、選んでるよ」と言われた高校の同級生が、私の夫となるのです。
沙織さんの魂は殺された
沙織さんは、両手で頭を抱えてテーブルに突っ伏した。肩を震わし、喘ぎながら、苦しそうに呻く。
「天井だけ、天井だけ、見てたんです。唇が気持ち悪くて、もう、硬直して……」震える沙織さんの肩をさすらずにはいられない。
父親はすでに亡く、あれから40年近くの時が経っているというのに、沙織さんの心はすぐに血を噴き出す。まだ、何も終わっていないし、傷口に何とかできた瘡蓋(かさぶた)はいとも容易にすぐ、剥がれ落ちてしまう。
「自らの欲望を優先させた結果、娘を用いて自らの性欲を満たしました」
富山県で実父から高校生の時に性的暴行を受けた女性が、23歳で父親を告訴し、逮捕にまで至ったケースの父親の「反省文」だ。その後、この父親は、行為を認めたうえで、「娘は抵抗できない状態ではなかった」と述べ、無罪を主張した。自らの歪んだ欲望の結果、娘にどれほど深刻な傷を一生背負わせてしまったのかを自覚することは、この鬼畜たちには不可能なことなのか。
「死んだように生きる、生き地獄です」
性的虐待は「魂の殺人」と言われるが、まさに沙織さんはケダモノによって殺されたのも、同然だった。