2023年に広島で開かれたG7では、各国の財務官も国際金融の今後について議論を交わしたという。財務省の元財務官、神田眞人氏が在任当時の出来事を振り返る。
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「改めて日本へようこそ。皆さんは座禅で心身が浄化され、精神力が高まったので、建設的な議論ができるはず。合意へのご協力を期待している」
2023年3月23日、鎌倉に集まったG7の財務官達(財務大臣代理・中央銀行総裁代理)に向け、私はそう宣言した。2日間の泊まり込みで、私が議長を務めるG7財務大臣代理・中央銀行総裁代理会議を開催。議論の合間には、円覚寺での座禅も体験してもらったのだ。
開催国の我々日本人以外は全員、椅子社会の欧米人なので座椅子も用意していたが、誰もつかわず、全員が正しく足を組むことに挑戦。少なからずは左足を右足のももの上にのせるだけのような半跏趺坐(はんかふざ)だったが、完成度の高い結跏趺坐(けっかふざ)ができていた方々も何人もいたことに驚いた。これは良い議論ができるのではと心中、期待が高まったのである。
討議ではロシア制裁・ウクライナ支援、開発金融、世界経済と金融市場、経済安全保障、気候変動、国際保健、国際課税、金融政策など実に様々な論点を扱ったが、今号では前回に続き、金融関係に絞って紹介する。
折しも、その約2週間前から、世界的な金融リスクが顕在化していた。同年3月10日には総資産2000億ドルを超えるアメリカの中堅地銀シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻。その2日後にはニューヨーク州のシグネチャーバンクも破綻した。影響は米国だけに留まらず、直後にスイスの大手銀行クレディ・スイスの株価が急落、経営危機に陥った。
私も危機感を高め、3月17日には財務省と金融庁、日本銀行の幹部が集まる臨時の情報交換会合も行った。2023年のG7議長国は日本である。世界的な金融危機を回避すべく、国際交渉の場で主導的な役割を果たすことも求められていた。
そうした状況で迎えた泊まり込み討議では、議論の対象として、国際金融危機リスクへの対応を念頭に置いており、合意に向けた大きな進展を期待していた。勿論、世の中はそんなに甘くなかった。
金融安定化の司令塔
金融安定化の分野では、かなり精緻で複雑な国際的プロセスが構築されており、様々な専門的議論の場で、高度な意見交換、分析、そしてルール形成の交渉が日々行われている。
以下、敢えてかなり詳細に、専門的な経緯を記したい。極めて技術的な内容でもあるため、わかりにくい箇所もあるかもしれないが、詳細に全てを理解する必要はなく、金融安定化分野における国際交渉の雰囲気を感じ取ってもらえればありがたい。
