G7でもG20でも財務トラック(総理が仕切る首脳プロセスに対し、財務大臣や中央銀行総裁が仕切るプロセス)の会議では、ほぼ必ず金融部門のセッションが設けられる。そこでは国際金融規制の議論が極めて重要である。
国際金融の安定化の司令塔は、2009年にG20ロンドン・サミットの首脳声明において再構成されたFSB(金融安定理事会)である。もともと1999年にG7によって金融安定化フォーラムが設立されていたが、2008年のリーマン・ショックを契機とする国際金融危機を受け、メンバーをG20の財務省・中央銀行・監督当局や国際機関などに拡大し、FSBとして強化された。
因みにG20でも、1999年にG20財務大臣・中央銀行総裁会議が設立されたが、同様にリーマン・ショックを受けて、2008年にG20首脳会議が創設されている。従って、財務トラック、特に金融規制は、国際会議で特別な位置づけであるといってよい。
日本では金融庁が対応の中心となる。連載第3回で記したように、私は2017年に主計局次長に就任して以降、ずっと金融庁併任を麻生太郎、鈴木俊一両大臣(財務大臣兼金融担当大臣)に命じられていたので、大変、助かった。
また、金融庁出向時代の河野正道、氷見野良三両金融国際審議官や森信親長官のご指導、同僚だった金融庁国際室の仲間達、特にOECD(経済協力開発機構)でも大変にお世話になったKさん、Nさん、Nさん、Fさん、Sさんのご支援には感謝している。とりわけFさんとSさんは私より二回り若い中堅であるが、今でも金融庁行政についての私の先生のようなものだ。
G7で繰り広げられた大論争
さて、このG20で大方針が決まると、FSB本体、或いは、BCBS(バーゼル銀行監督委員会)、IOSCO(証券監督者国際機構)、IAIS(保険監督者国際機構)といった基準設定主体で具体的な規制が検討される。
BCBSはスイスのバーゼルにあり、「バーゼルⅢ」(世界的な金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めるための国際金融規制の合意)など銀行に関する基準・指針等の国際的ルールを策定。IOSCOはスペインのマドリッドにあり、証券監督に関する原則・指針等の国際的ルールを策定。そして、IAISもバーゼルにあり、国際的な保険監督に関するルールを策定するとともに、保険監督者の協調を促進する機関である。
さらに実態を述べれば、G20の主要分野には事務方による作業部会が設けられている。だが、金融関係は、持続可能な社会を実現するための「サステナブルファイナンス」と、あらゆる人が平等に金融サービスを受けられる「金融包摂」にかかる部会があるものの、金融規制全体を扱うものは存在しない。
※本記事の全文(約8800字)は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(神田眞人「ミスター円、世界を駆ける」)。
■短期集中連載「ミスター円、世界を駈ける」
第1回 ウクライナ、ガザ……そのとき国際金融の現場で何が起きたか
第2回 戦時下のキーウ行夜行列車
第3回 為替介入 水面下の国際工作
第4回 スリランカ債務交渉の七転び八起き
第5回 今回はこちら
