3番目の講義中の水分補給の禁止は学生時代にはあり得なかったかもしれない。しかしIT企業のSEとして顧客先を訪問する場合、自らペットボトルを持参し、飲みながら商談することは非常識と思う会社もある。
新入社員研修とは学んだことをその通りに実践するものではない。基礎を叩き込み、自分なりに応用して使いこなすためのものだと考えればよい。
さらに言えば研修とは「社会の理不尽」そのものを修得する場であると考えたほうがよい。研修を経てこれからそれぞれの職場に配属される。そこには手のつけられないわがままな先輩や上司も生息している。
自分の言っていることが正しいと信じて疑わない上司、話を聞いても何を言っているのか意味不明の論理的思考が欠如した上司、少し意見を発すると、しどろもどろになって逃げ回る上司など、とにかく得体の知れない人たちがどこにでもいる。おそらく転職しても同じだろう。
新人にとって大事なことは「やりたい仕事のスキルを磨き、キャリア築くこと」であるはずだ。それをそのままやらせてもらえる理想の職場はめったにない。
自分のめざす方向性を信じ、多少の理不尽さにうまく対処しながら続けていけばきっと新しい景色も見えてくるはずだ。辞める決断はその後でもよい。最初はつらく、苦しくても「自分がこの世の中で生きていくストレッチだ」と考えるのはどうだろう。ある意味、最初は稼ぐためにやっている一時的なアルバイト感覚でもよいかもしれない。
4月9日、情報ライブ「ミヤネ屋」に出演していた元ユニクロ史上最年少上席執行役員の神保拓也さんは、「入社早々退職する人の中には一定数辞めたほうがいい精神状態の人もいるが、本人が抱いている悩みや課題をよく解きほぐせば85%の人はその仕事にとどまる。だから、退職代行の『モームリ』に対抗して引き止め代行『マダイケル』を作るといい」といった趣旨のコメントをした。
アルバイトと違って会社員は有給休暇もあれば、福利厚生、そして学ぶためのeラーニングなどの研修機会にも恵まれている。会社にいる間はとこととん利用することをお勧めしたい。いわば会社を利用してプロフェッショナルへの道を切り開こうとする姿勢がもっとも大事なのではないだろうか。
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
