吉原や女郎本人に飽きてきた客には、吉原のイベントは有効だったようで、久しぶりに行ってみようかという気を起こさせたようです。

吉原の女郎は警動(けいどう)(町奉行が行った手入れ)などで、外部の岡場所から連れて来られた女郎以外は、原則読み書きができました。そのため、呼び出しや座敷持についている禿や振袖新造は、昼見世の間に、読み書きを先輩女郎から教わりました。中には将来花魁と呼ばれる地位についても困らないように和歌や俳句を習う者もいたのです。

吸付け煙草で客と間接キスをし、動けなくして店へ入れる

夕七ツ(午後4時)頃

昼見世が終了して、女郎たちはひと休みです。

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台所に行って、夕飯を食べる者や、おやつの甘い物を禿に買いに行かせて楽しむ女郎もいました。

暮れ六ツ(午後6時)頃

いよいよ夜見世が始まります。女郎にとってここが主戦場なので、トップの呼出しから、最下位の女郎まで、気合を入れて準備します。

さて、「清搔(すががき)」という三味線の演奏が始まると、座敷持以下の女郎たちが張り見世の中に並んで座ります。席順は原則上位の女郎が奥のほうで、格子に近いほうが下位の女郎です。

女郎の前には煙草盆が置かれています。煙草は女郎の嗜好として吸われますが、それ以上に張り見世で、重要なのは女郎が客に吸付け煙草のサービスをすることです。

女郎独特の長い煙管に煙草の葉を詰めて、火をつけた煙管をひと口女郎が吸い、それを格子越しに見つめている客に渡すのです。現代風に言えば、間接キスかな。客にしてみれば、指名しようかどうか迷っている女郎が口にした煙管を渡してくるのですから、「俺に気があるのかな」と勝手に誤解して、指名してくれるのを狙った作戦です。

さらに、いい客になりそうだと思う客が格子に手をついて覗いてきたら、客の袖口に煙管の雁首を引っかけて、格子の内側に引っ張るのです。すると客は動けなくなります。そこで、甘い言葉を吐きかけます。その様子を見ていた若衆が寄ってきて、「旦那、さあ中へ」と招き入れるのです。