存在を確認していた4人のうち、1人は命が尽きて

《やっと見つけてもらえた!》

 全身にはりつめていた緊張感が一気に抜けていく。見捨てられたのではという孤立感も消えた。

「そこにいる人、名前を言うてみ」

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 救助隊員が声をかけてきた。

「山下亮輔です」

「そこに生存者は何人おるか」

「4人や!」

 叫ぶ声やうめく声は、すでにかなり少なくなり、この時点で確かに声を出していると確認できていたのは、4人だった。

 下のほうにいる林と、すぐ近くの男性1人、女性1人、そして亮輔自身の計4人だ。女性は40歳代の大下裕子という人だった。

 救助隊員が林に水の入ったペットボトルを手渡し、「飲んだら他の人に回して」と言った。林は2口、3口飲むと、ボトルを亮輔に回してきた。手を伸ばしてボトルを受け取った時、

《なーんだ、こんな近いところにいたのか》

 と驚いた。水を飲み終えた亮輔は、暗い中にいる大下裕子のほうにボトルを差し出した。手が伸びてきて、亮輔の手に触れ、ボトルをつかんでくれた。だがもう1人の男性は何の発語もなくなっていた。命が尽きていたのだ。

 亮輔は車内の状態を確認しようと、救助隊員に懐中電灯を貸してほしいと頼んだ。懐中電灯を受け取って、周囲を照らすと、車両はグチャグチャに壊れて、自分がいる空間は、意外に狭いことがわかった。

 しかし、見えるものが、なぜかどれもこれもぼんやりとしている。気がつけば、コンタクトレンズがはずれてなくなっていた。電車が転覆してマンションに衝突した時、投げ飛ばされた衝撃で、はずれたのだろう。

 医師が救急隊員の次に下の穴から入ってきて、林の腕に点滴の針を刺して、点滴を始めた。おそらく脱水症状や貧血状態に陥っていたのだろう。

©時事通信社

「早くしてくれ!」苦しみと死の不安から一刻も早く逃れたくて

 そのうちに、亮輔のすぐ上のところ、つまり車両が横倒しになって天井のようになった右窓のある側面に、救出のための穴が開けられ始めた。自力では動けない人を担架で引き上げるには、かなり大きな穴を開けなければならない。その作業は火花を出さないようにしながら進めなければならないため、時間がかかった。動けない者には、もどかしく見える。

「早くしてくれ!」

 亮輔は、思わず叫んだ。あまりに時間がかかるので、いらいらがつのるばかりだった。車両が狭い駐車場をほとんどふさぐ形で潰れている状況について、閉じこめられ動けなくなっている亮輔にわかるわけがない。苦しみと死の不安から一刻も早く逃れたい思いがあるだけだった。

 腕時計はガラスが割れて止まっているし、携帯を見ることもできないので、一体どれくらい時間が経ったのか、今何時ごろなのかもわからない。実際には、事故から実に13時間以上も経ち、すでに夜半近くなっていたのだが、亮輔はそんなに時間が経っているとは思ってもみなかった。もし時間がわかっていたら、かえって耐えられなかったかもしれない。

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