「相場から30~40%に設定しても、全く買い手がつかない」理由とは…

 この日の参加者の中に、1人興味深い立場の人間がいた。渋谷区代々木に不動産会社を構える島洋祐(41)だった。

 島は数カ月前に、ある不動産会社から請われる形で、秀和幡ヶ谷レジデンスの1室を法人名義で購入していた。発端は「オーナーが管理組合に強い不信感を持っており、たたき売りでもいいから手放したい」と相談を受けたことだった。渋谷区の一等地であれば、転売すれば利益が出るはずだ。そんな皮算用のもと、格安ともいえる金額で島は購入を決めた。

 売買契約を結ぶ前、島は視察に訪れている。習慣的に外観の写真を撮っていると、管理人の大山が「何をやっているんだ、お前は!!」と小走りで追いかけてきた。「撮った写真を全部消せ」と威圧的に凄まれ、その場で消去を強制された。数多の売買を成立させてきた島にとっても、初めての経験だった。

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 管理人には面食らったが、立地を考えると売れるはずだ。内外装もヴィンテージマンションにしてはきれいに保たれていることも加点要素だった。ただ、島の培ってきた不動産業界の常識は、秀和幡ヶ谷レジデンスには当てはまらなかった。

「相場から30~40%に設定しても、全く買い手がつかないんです。非常に売りづらいマンションで、その理由は理事会の存在に凝縮されていた。不動産屋から問い合わせが来ても、管理の実態を告知義務として伝える必要がありました。そうすると、見事にスーッと引いていってしまう。世帯数が多いと組合の交代のハードルは一層高い。正常化には何年かかるか分からない、というのが当初の印象でした」

 購入から間もなくして売却を半ば諦めた島は、賃貸で貸し出すことにした。入居者はあっさり決まったが、早々にトラブルに直面する。水漏れが生じた際に、借り主が管理人に相談すると工事業者を手配したという。そこで「オーナーには報告するな」とした上で、後日、工事業者から数十万円の請求書が島の会社に届いた。

「何の権限があって勝手に高額の工事を行ったのか」

 島は激怒し管理人を問い詰めたが、要領を得ない説明しかない。支払いを拒否したことで、直接的な嫌がらせともとれる行為にも遭った。水漏れ後に空室になり、別の借り主を探そうとすると、入居者面談でことごとく落とされたという。賃貸もおぼつかなくなり、困り果てた島は、内容証明郵便を送付したが受け取りを拒否された。

 理事会の言い分はこんな趣旨のものだった。前オーナーが売却を検討していた際に、吉野理事長から「勝手に売るな」「ウチの指定した不動産屋で売れ」「そうでないと新しい区分所有者は認めない」という“注意”がなされた。書類上では売買契約は完了している。

 ただし、管理組合の承認を得ていないため、区分所有者として認めない、というロジックだ。正当性が危ぶまれる理屈ではあるが、島の他にも秀和幡ヶ谷レジデンスで同じような経験をした者は複数名いたことも記しておく。

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