単なる電子信号に過ぎない暗号通貨に価値が認められるのは、それが稀少だからである。その稀少性は、「マイニング」を経なければ発行されず、また発行量に上限が課されることで保たれている。他方、通貨というものは、取引や貯蓄の手段として機能するためには、それが人々の間で広く流通していなければならないはずである。だが、暗号通貨の価値は、その稀少性にある。このため、もし暗号通貨が広く流通すると、その稀少性は失われ、暗号通貨の価値は暴落してしまう。言い換えれば、暗号通貨は、通貨として流通するや否や、ハイパーインフレを引き起こすのである。逆に、暗号通貨の価値を維持しようとして、その稀少性を保とうとすると、今度は、通貨の不足、すなわち深刻なデフレという事態に陥る。
矛盾する稀少性と流動性
要するに、暗号通貨の価値を支える「稀少性」と本来の通貨に必要な「流動性」との間に、根本的な矛盾があるのである。したがって、いくらブロックチェーンなどの画期的なデジタル技術を活用しようとも、暗号通貨は、国家が発行する既存の通貨の機能を代替できない。
この暗号通貨の欠陥は、その設計の基本にある「商品貨幣論」という貨幣観の誤りに由来している。では、正しい貨幣観とは何か。それは、「信用貨幣論」と呼ばれる貨幣観である。
例えば、イングランド銀行の貨幣に関する入門的な解説には、「今日、貨幣とは負債の一形式であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債である」とある。このように、貨幣を商品の一種ではなく、負債の一種として理解するのが信用貨幣論である。
※本記事の全文(約9100文字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年4月号に掲載されています(中野剛志「暗号通貨バブルは必ず崩壊する」)。

出典元

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