もっとうまいやり方があるだろうとハラハラさせられる場面も多いが、それでもスカッとするのは、世のサラリーマンがぐっと押さえ込んでいた気持ちを、彼女が心地良い啖呵とともに吐き出してくれるからだろう。
どいつもこいつも親会社の考えばかり気にしてる。あなたたちは親会社に死ねと言われたら死ぬんですか? うちは親会社のオモチャじゃないでしょ!
――いやあ、言えたら気持ち良いだろうなあ。絶対言えないけど。
ただ所詮は3年目の平社員である。上層部のパワーゲームやその背後に付け入ることはできない。その現実の中で彼女が自分の事業を通すためにどう活路を開いていくのかが読みどころだ。
ミステリーとしても実に凝っている。かつてカンコーで起きた事故とは何だったのか。真相が明らかになったとき、そんなところにヒントがあったのかと思わずのけぞった。と同時に、親会社や取引先の意向ひとつで仕事が左右される立場の悲哀が、痛いまでに伝わってくる。
エキサイティングで元気な物語の中にちくりと混ぜられた、女性の立場や権力の勾配という厳しい現実。理不尽は至るところにあるけれど、それでもやっぱり仕事って面白いものなんだと、最後は思わせてくれた。
(城戸川 りょう 著、文藝春秋 刊、税込1760円)
おおやひろこ/1964年生まれ。書評家・文芸評論家。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』など。
出典:労働新聞社 令和7年3月24日第3490号
【書方箋 この本、効キマス】第104回 『高宮麻綾の引継書』 城戸川 りょう 著/大矢 博子
https://www.rodo.co.jp/column/194437/
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