学校との話し合いは平行線に終わったが、マサルくんの状態は目に見えて悪化していた。

「振り返ると、6年生になってから急に疲れやすくなっていました。それまではいつも踊ったり歌ったり、ゲームをしたり、テレビを見て笑ったりする普通の子でした。それが、学校から帰るとすぐに寝てしまうようになりました。夏頃には円形脱毛症で頭にあたりが直径2cmほど毛が抜けてしまい、『悩みがあるの?』と聞くと、『先生がウザい』と言っていました。

 お風呂から2時間も出なくなったり、部屋に引きこもってボーッとする時間ものび、友達との遊びの誘いも『休みの日ぐらい寝かせて』と断ったり。夫と『病院に行ったほうがいいのでは?』と話し合ったこともありますが、マサルは自分の気持ちを教えてくれるほうだったために、本人に病院のことは伝えていませんでした」

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マサルくんがノートに書いていた「死」の文字。小さな「死」が並んでいる

卒業式で1人の児童が勇気を出して発言した「転校した子の分も…」

 卒業間近の3月には、マサルくんがノートに「死」「絶望」「呪」などの文字を書いているのを他の教員に見つかる事件も起きていた。教員は「担任に対するものか?」と尋ね、マサルくんは認めなかったが、他のクラスメイトは頷いていたという。

 卒業式当日には、担任の許可を得ずに「転校した子の分も忘れないで」と発言した児童もいた。多くの児童や教員にとって、それがX教諭への抗議であることは自明だった。

 マサルくんの母親らも、卒業直前の3月8日に「X教諭に対する厳正な処分を行うことにより、体罰や不適切指導の完全なる再発防止を求める嘆願書」を市の教育委員会に提出した。

 教育委員会は調査を開始し、約1年後の2020年3月30日に調査報告書をまとめ、X教諭の体罰6件、暴言1件、不適切な指導26件、保護者や教職員への不適切な対応7件、計40件を認定、マサルくんが亡くなって3年半後の22年12月には懲戒免職を言い渡している。

マサルくんの母親

 小学校教諭の懲戒免職は異例で、X教諭の言動の問題を教育委員会も看過できなかったのだ。