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安保法制反対デモに参加した事務次官 前川喜平が語る「安倍政権下の“苦痛な仕事”」

前文部科学事務次官・前川喜平 2万字インタビュー #3

2018/06/22

genre : ニュース, 政治

note

どうして辞任挨拶メールが長文になったのか

――次官をお辞めになるにあたって、文科省の職員全員にメールを出されています。そこには「ひとつお願いがあります。私たちの職場にも少なからずいるであろうLGBTの当事者、セクシュアル・マイノリティの人たちへの理解と支援です。無理解や偏見にさらされているLGBT当事者の方々の息苦しさを、少しでも和らげられるよう願っています」ということも綴られています。通常のお別れの挨拶とは違う文面にも感じますが、どういう気持ちでこれを書いたのでしょうか。

 

前川 これは幼少期の思い出でも語ったことですが、私は転校生で不登校になったこともありますし、同じ境遇のクラスメイトに出会ったこともありました。ですから少数派の立場にいて悩んでいる人に気持ちを寄せていかなければ社会は成り立たないと考えているんです。それは子どもたちの世界でも同じです。ですから、文部行政に関わる職員にはこのことを胸に、職務に当たって欲しいという願いを込めたんです。

――文面は相当練られたように感じますが。

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前川 私は2017年の1月20日に辞めたんですが、その前日、19日の朝にNHKが「前川次官辞任」って流したんですよ。それで次官室の前の廊下にはメディアがずらっと居並んで記者会見を求めていたんですが、松野博一大臣が私をかばうおつもりで「前川は今日、記者会見する必要はない。説明責任は自分が負う」と。それで次官室に一日中こもることになったんです。通常、次官が交代する時には課長補佐以上を講堂に集めて新旧次官挨拶の行事があるんですよ。しかし、引責辞任の状況ではそれもできない。その代わりにメールを出そうと考えたんです。最初は短かったんですけど、次官室に閉じこもっていて時間がたっぷりあったので、これも書こうかな、あれも書こうかなと、書き加えているうちに長文になってしまったのです。

 

――異様な状況の中で、一日中次官室にこもる官僚人生の最後というのは想像もしていなかったのではないですか。

前川 そうですね。次官室と大臣室って廊下に出なくても行き来できるよう繋がっているんですね。それで大臣室には専用トイレがあるんですが、松野大臣がいいよって言ってくれて、その日は大臣専用トイレを使っていました。トイレ行きたくなったら「大臣、すみません」ってお声がけして(笑)。

したくない仕事も随分させられたけど

――次官をお辞めになった後、読売新聞の「出会い系バー通い」報道がありました。「週刊文春」はこの時出会っていたA子さんに接触して前川さんとの交流を語っていましたが、この記事を読んでどう思われましたか。

前川 お会いした頃の彼女は、もうその日その日が楽しければいいみたいに漂っている感じでした。類は友を呼ぶで「まえだっち(註・前川氏の仮名)だったら、おごってくれるよ」って、5、6人連れてこられたこともありました。これはたかられてるだけじゃないか、まずいぞこれじゃ「ギャル版こども食堂」じゃないかって思いましたね。それでも「やっぱり大学には行った方がいいんじゃないか」「せっかく学校に入ったんだから勉強したら」なんて私はずいぶん説教じみたことも話していました。のちに彼女は自分でアパレルの販売員の仕事を見つけてきてね。仕事を始めたって聞いて、いっぺんお店を見に行ったことがあります。ずいぶん恥ずかしがっていましたが、真面目に働いていてね。それっきり彼女とはお会いしていませんから、文春の記事を見たときは驚きましたね。よく探し出したな、と。

 

――記事によればA子さんのお母さんは「結婚したら前川さんを結婚式に呼びなよ」と仰っているそうです。

前川 ハハハ。本当にそうなったら、それはそれで面白いですけどね。

――長い官僚人生を引退されて1年が経ちました。振り返って、どんな役人人生だったと思いますか。

前川 そう悪くない役人人生だったと思いますよ。したくない仕事も随分させられたけど、やって良かったと思える仕事もありましたし。現在は講演や執筆、自主夜間中学のボランティアなどで結構忙しくしています。役人時代にはできなかったことなので、楽しんでやってます。ただその傍らで、人生にifがあったとすればって考えるんですよ。やっぱり高3の時に数Ⅲを諦めずに頑張って、宇宙物理学者を目指せばよかったかもしれない。小説も書きたかったし(笑)。そんな野望を抱く人生も悪くなかったのかなって、今では思っています。

 

写真=榎本麻美/文藝春秋 

まえかわ・きへい/1955年生まれ。1979年文部省入省。2017年1月、文部科学事務次官を辞任。近刊に『面従腹背』(毎日新聞出版社)。

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