朝鮮学校無償化に強烈に反対した民主党の閣僚
――朝鮮学校無償化の話もこの時代のものだと思います。これに対しては色々な意見もあったかと思いますが、いかがでしたか。
前川 野党時代の民主党がすでに朝鮮学校も対象とする前提で高校無償化法案を出していた。それを下敷きに制度設計をしたのですから、朝鮮高校は当然対象になると考えていました。しかし、外国人学校が朝鮮学校だけというわけにもいかないだろうと。そこで外国人学校は全部、高等学校の過程に類するものは全て入れようということになったわけです。ところが今は、フランス人学校やドイツ人学校は対象になっているんだけど、朝鮮学校だけは排除されている。極めていびつな形になっています。
――民主党政権ではどのような議論があったのでしょうか。
前川 民主党政権に変わったとき、私は初等中等教育局の審議官として高校無償化の制度設計も実質的に指揮していました。当然、朝鮮高校を対象にするつもりで作業していましたが、実は民主党政権の閣内にも異論がありましてね。拉致問題担当大臣の中井洽さんが強烈な反対論者でした。拉致問題と朝鮮高校で学んでいる子どもたちの授業料を軽減するって話は全く別の話で、これでは「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」の話だなと思っていました。
私はね、好きでした、田中真紀子さん
――朝鮮学校無償化に対する右側からの攻撃について、寺脇研さんとの対談本『これからの日本、これからの教育』で、前川さんは「『ネトウヨ』といわれる人たちは、『個の確立』ができていないのでしょうね。ある意味、教育の失敗だと思います」と語られています。ネット右翼については当時から意識されていましたか?
前川 私はあんまりネットを見ないので、意識してなかったと思います。産経新聞は意識せざるを得なかったんですが。もう、相当目の敵にされていましたからね。
――この頃からですか?
前川 朝鮮高校無償化の議論がなかなか進まない中で、高校の生徒たちが署名を持って私を訪ねてきたことがあったんです。その署名の中に日本人のものもあったと聞きましたので、「なかなか結論が出なくて申し訳ない。日本人の人たちの理解を得られたことはいいことですね」という言い方をしたんです。この発言が「朝鮮新報」に載り、それを産経新聞が記事にしたんですね。前川という審議官がこんなことを言っていたって攻撃されました。
――ところで民主党政権の最後は田中真紀子文科大臣でした。印象はいかがでしたか?
前川 私はね、好きでした。官房長としてお仕えしましたが、表裏のない人ですよ。この時の次官は科技庁系の森口泰孝さん。田中大臣、森口次官、私、それぞれ相性よかったと思います。朝鮮高校無償化にも非常に前向きだったんです。ところが政権交代が起きて、2カ月半で大臣も交代。在任期間の最後には大学設置審議会の答申に反する「設置不認可」の問題で紛糾してしまいました。あれがなければ、朝鮮高校の話ももっと前向きに進められたかもしれません。