「新自由経済は人を殺す」という教皇のメッセージ

――教皇フランシスコはどのような人物なのでしょう。

【中村】南米(アルゼンチン)出身者としては、初めての教皇で、「人を重視する社会」「人を重視する経済」を一貫して目指しています。

私が大使としてバチカンに赴任し、教皇に初めて謁見したとき、3冊の本をいただきました。教皇の著書『使徒的勧告 福音の喜び』『使徒的勧告 愛のよろこび』『回勅 ラウダート・シ ともに暮らす家を大切に』です。

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『使徒的勧告 福音の喜び』というタイトルだけを見ると信仰について書かれた本かと感じる人も多いとは思いますが、多くの部分が世界経済の問題点に割かれています。特にショッキングだったのは次の1文です。

〈この経済は人を殺します〉

このままの新自由主義的な経済が続けば、貧富の格差はさらに広がり、人を殺す。

教皇は著書でそう指摘しています。

本の内容からも分かるように、教皇は絶えず立場の弱い人に気を配っている。同時に、聖職者には、教会の外に出て弱い人のために働きなさいというメッセージも出しています。

アメリカのカトリック保守派の中には、教皇をマルキストだと批判しますが、一般の信徒は教皇に絶大な信頼を寄せています。弱い立場に寄り添おうとする教皇のまなざしや姿勢が、たくさんの信徒に慕われる要因でしょう。

バチカン関係者は日本に無関心

――中村さんが教皇の訪日を実現させようと思うきっかけはなんですか?

【中村】バチカン大使に任命されるまで、私は内閣官房参与として官邸で働いていました。官邸で、教皇の来日を望む声をよく耳にしました。

安倍総理(当時)が前からおっしゃっていた「核なき世界の実現」や環境保護などは、バチカンの問題意識と価値観が同じものでした。

2代前の教皇だったジョン・パウロ2世が来日したのが1981年。2014年に現教皇は韓国を訪問しましたが、来日はしなかった。

そんな状況でバチカン大使就任の打診を受けた私は、ぜひ教皇に日本を訪れてほしいと思い、大使としてのミッションだと考えるようになりました。