「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年は、「介護崩壊元年」とされるが、現場ではすでに崩壊は始まっている…。ここでは老老介護の末に、殺人事件にまで発展した事例を紹介。なぜ長年、連れ添った家族を殺める高齢者が続出するのか? ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』(宝島社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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89歳の妻を94歳の夫が殺害

 問題が山積しているのは施設だけではない。介護をめぐる現場では、自宅で高齢者が高齢者を介護する例が増え、老老介護が引き金となって事件に発展するケースも少なくない。例えばこんな事件が起きている。

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 北海道札幌市で当時89歳の妻を殺したとして、94歳の夫が逮捕された。事件が起きたのは2023年11月。年下の妻は約4年前から認知症を患っていたという。妻の介護にあたっていた夫は、介護疲れからうつ病を発症。

 介護を続けることも、施設に入れることも難しいのではないかと将来を悲観し、妻の首に紐を巻きつけることを選んだ。夫は数分間にわたり妻の首の紐を絞め、その後、自殺を図るが死にきれなかった。翌日、自ら警察に通報し逮捕された。

 さらに、こんな事件も起きた。

「母親の首を絞めて殺しました」

 そう言って女性が110番通報したのは2024年7月の午前7時前だ。警察が東京都立川市の住宅を訪れると、102歳の母親が寝室のベッドで倒れていたという。通報した娘は当時70歳。母親が自らポータブルトイレに移動することができなくなり、体重が重い母の介助を娘が行うようになっていた。娘は警察の調べに対して「介護がきつくなって殺した」と肩を落とした。

 同年9月には、北海道北見市でもこんな事件が起きている。