国家から「反社会的組織」と定義されている暴力団。その構成員や準構成員の家族、とりわけ子どもはどのような人生を過ごし、大人になっていくのか。『ヤクザの子』(石井 光太著、新潮社)から一部抜粋し、16歳の風俗嬢と既婚者ヤクザが不倫した末に生まれた女性のケースを紹介する。彼女は小さなころに育児放棄され、義母からは暴力を振るわれ、煙草とシンナーの味を小学生時代に覚えるという壮絶な幼少期を送っていた――。なお、登場する証言者やその関係者は、身に危険が及ぶことを考慮して全て仮名にしている。(全3回の1回目/2回目を読む/3回目を読む)
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7人のヤクザを相手に8人の子供をつくった女性
千葉県内の2階建てのアパートが、赤塚未知(あかつか みち)の今の住居だ。
2DKの部屋には、家具といった家具がなく、むき出しの床に灰皿と缶ジュースが置いてあるだけだ。台所にはコンビニ弁当とペットボトルの入った袋がいくつも置かれて異臭を放ち、寝室には汚れた布団が敷きっぱなしになっている。
ここには、未知の他に稲川会の構成員である夫、1歳の五女、5歳の三女、そして17歳の次女が住んでいる。未知にはこれ以外にも5人の子供がおり、18歳の長女は結婚して妊娠中、他3人は児童養護施設に入所している。
彼女は耳を疑うようなことを口にした。
「私、8人子供がいるけど、2人だけ同じで、後は全員父親が違うの。しかも、その7人の男はみんなヤクザだよ」
未知は1974年の生まれで、まだ40代だが、前歯がないために呂律が回らず言葉が聞き取りにくい。かつて付き合っていた構成員の男に顔面を殴られて、前歯を折られたという。しかも、覚醒剤の後遺症で記憶がつづかないらしく、話題があちらこちらに飛んでとりとめがない。
未知は取材に応じた理由を次のように述べた。
「医者から癌だって言われて、余命も短いみたいだから困ることなんて何もねえ。何だってしゃべるよ」