「事情を知らない家族からしたら、ただの変態」
実際、まさしく家族としてドールの葬儀に立ち会う人は珍しくないそうだ。ある壮年の男性は正式な喪服をまとって参列し、式の最中に大号泣して崩れ落ちたという。別れがあまりに悲しく、再び連れて帰るケースもあった。
性的な道具という関係性をとうに超えているのはよくあることで、先述のとおり、届くドールのうち7割は性交渉の痕跡がみられない。とはいえ、周囲にはそうした関係性はなかなか理解されない。
新さんのもとには、過去に1件だけ持ち主の遺族からの依頼が届いたことがある。夫の遺品整理の過程でドールと遺言書を発見し、そこでドール葬儀社の存在を知った女性から、「気持ち悪いからすぐ引き取って処分してください」と頼まれたという。
「事情を知らない家族からしたら、ただの変態ってことになるんですよ。そういうこともあって、オーナーさん同士で何かあったときに譲りあう文化もできています」(新さん)
ドールのお葬式の依頼者は30代半ばから70代までと幅広いが、ボリュームゾーンは40代後半から50代だという。体力が落ちて等身大のドールを扱うのが辛くなってきたという人や、親の介護で生活形態が変わったのを機に手放すという人が多いそうだ。
好むと好まざるとにかかわらず、人は衰えるし、自由にできるプライベートな空間は人生の局面で変わっていく。変化の過程で守りきれなくなる秘密もある。そのとき変態扱いされないよう、大切なものを大切なものとして終わらせてくれるサービスを知っておくことは、重要なことかもしれない。
