警備員が仕事をサボってダブルワーク
西牧氏はある夜、2人の警備員がきちんと仕事をしているのか不安になり、深夜にこっそり確認に出かけた。
公邸を取り囲む外壁近くの警備小屋で椅子に座る人影が見えた。でも、人影は動く気配がない。近づいてよく見ると、棒に警備員の帽子と服を引っ掛けた案山子のようなものが置いてあった。西牧氏は「警備会社が給料を中抜きした結果です」と説明する。「警備員はそれだけでは食べていけないので、ダブルワークをしていたのです」。西牧氏はこの警備員を解雇したが、同じ警備会社から別の警備員を派遣してもらうしか方法がなかったという。
実際、外交団を襲う強盗が後を絶たなかった。西牧氏の駐在中、ある中東の国の大使は大使公邸で深夜に5~6人の強盗団に襲われた。娘さんとともに緊急退避室に逃げ込んで難を逃れたが、サロンのドアは破壊され、テレビ、ビデオなど多くの家財道具を奪われた。南米某国の大使は連続して2回も公邸で強盗団に襲われた。縛り上げられ、指を切断する怪我も負ったという。
西牧氏は万が一に備え、扉が鉄製に強化された緊急退避室でいつも寝ていた。
停電・断水、夜は窓も開けられず…地方出張での苦労
地方はもっと大変だ。北部のカプリビ回廊地方では、雨期になると川が増水して、あちこちの未舗装道路を覆いつくす。そこにワニが入り込んで、通学途中の子どもが襲われる事件が後を絶たない。地方では子どもが片道3~4時間かけて歩いて通うのが一般的だ。西牧氏が親しかった教育省副大臣に、「スクールバスを用意できないのか」と尋ねると、「私も往復8時間かけて通った。予算がないから無理だ」と言われたという。
地方出張で泊まったあるホテルでは、バスタブに蛇口が取り付けられていなかった。別のホテルでは停電・断水に遭い、汗も流せずに寝るしかなかった。バケツの水で用を足した。北部地域ではマラリアが流行している。蚊を警戒して窓も開けられず、暑くて結局眠れなかったという。地方ではレストランの数も限られる。朝食はともかく、夕食を出さないホテルも多い。西牧氏は出張の際、いつも用心して飲料水とリンゴ、パンを持参した。

