「大使」と聞けば、「パーティー」「高級ワイン」などを連想する方も多いかもしれない。しかし、世界を広く見渡せば、日々の生活を送るのにも苦労の連続という大使も少なくない。
小さな島国に駐在する大使は「生鮮食品の確保が大変。たまに島に野菜が届くと、スーパーで奪い合いが起きる」と語る。別のお酒が飲めない体質の大使は、重要な人物との会合で無理やり酒を勧められ、人目につかないよう会食場とトイレを往復したという。
2022年5月から今年1月まで駐ナミビア大使を務めた西牧久雄氏も、そんな苦労を重ねた一人だ。
在留邦人のうち約3割が強盗被害に遭った経験を持つ
ナミビアはアフリカ南部にある。ドイツ植民地から南アフリカの支配を経て1990年に独立した。南アフリカ支配時代からの反アパルトヘイト勢力の影響から、しばしば「ジェンダー平等大国」として取り上げられる。ただ、実情は婚外子やシングルマザーが多く、社会的な課題が山積している。貧富の差に加えて、失業率が若年層で約5割と高く、刃物や銃などの武器を使った強盗事件が多発している。ナミビアの在留邦人は40人ほどだが、うち約3割が強盗被害に遭った経験を持つ。
安全が脅かされているのは、首都ウイントフックにいる外交団も同じだ。ドイツが整備した首都は一見立派だが、危険があちこちに潜んでいる。ジョギングや映画館通いも危なくてあきらめた。大使館や公邸にいるからといって、安全とは言えない。安心できるのは、母国から警備担当の海兵隊員を派遣する米国くらいだという。西牧氏の場合、警備会社と契約して大使館と大使公邸に24時間体制で警備員を派遣してもらっていた。