PKに長い間を取った選手トップ5

 ホイッスル後の間にはそれぞれのペースがあり、どれだけ間を取るかは選手次第となる。歴史を振り返ると、前章で紹介したように、PKキッカーは本能的にホイッスルが鳴って1秒と待たずにボールに向かって走り出す場合が多い。慌ててすぐに助走を始める人は、そうでない人よりもPKを失敗するケースが多いようだ。他方で、考え過ぎてしまう人は、助走を始めるまでに余計な間を取りがちだ。時間を取り過ぎるのも良くないように思える。

 主要な大会のPK戦の歴史のなかで、もっとも長い間を取った選手を5人挙げよう。(1)マーカス・ラッシュフォード(イングランド)、(2)タメカ・ヤロップ(オーストラリア)、(3)ポール・ポグバ(フランス)、(4)遠藤保仁(日本)、(5)ミーガン・ラピノー(アメリカ)。

 トップ10人を男女別にリスト化したところ、選手たちが最長の間を取ったPKはごく最近のものが多いことがわかる。

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セルソ・ボルヘス ©JMPA

 選手たちには、主審のホイッスルが鳴った瞬間につい走り出してしまう傾向があることを考えると、彼らがPKを蹴る前に長い間を取る時には、意図的にそれをやっている可能性が高いだろう。そこには意図がある。単なる反応ではない。ホイッスルのあとに間を置くと、助走前に精神を落ちつかせて、自分自身や状況(GKを含む)をしっかりコントロールできるようになり、キックするまでの流れを計画して準備するのに効果的だ。一流選手たちがどうこれをやるか、いくつか例を紹介しよう。

「すごくみじめで。半年間PKは蹴らなかった」

 男子サッカーの主要な大会でおこなわれたPK戦の歴史のなかで、セルソ・ボルヘスは間の長さで歴代5位につけている。彼は、PKを蹴り始めたばかりの頃に苦い経験をした。20歳の時に、2008年の北京オリンピックの予選にU—23コスタリカ代表として出場したものの、PK戦の重要な場面でキックを決められなかったのだ。さらに悪いことに、対戦相手だったパナマ代表チームの監督は父親のアレシャンドレ・ギマラエスだった。ボルヘスはわたしにこんな話をしてくれた。「ぼくのキャリアのなかの決定的な瞬間の一つだね。ものすごいショックを受けた。すごくみじめで。その後半年間はPKを蹴らなかったけど、ある日父からこう言われたんだ。『いずれにせよ、いつかPKをやらなければならなくなるだろう。おまえの選手としての価値はPKで決まるわけじゃない。しょせん試合の一部に過ぎないんだから』。そうだな。わかったよ。誰だって失敗することはある。半年後にウルグアイとの親善試合でPKのキッカーを務めた時、逆足でキックしたらうまくいった。それ以降、PKの出番が増えていった」