「この人数は華僑の協会とかに所属している人間をもとに割り出した人数ではないか。当然、協会に加盟していない人間もかなり多いから、この時点でも実際は100万人を優に超えていたと思う」

 なお、老華僑と新華僑の違いは、1970年代以前に中国大陸からマカオや香港、台湾、日本に移住した人間の総称で、新華僑はそれ以降に中国から移住した人間のことを指すという。

 話を中華街に戻そう。このコメントを出した人物は、横浜中華街では、扱う料理の種類によってバックにいる勢力が変わるとし、以下のように分類した。

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 1.四川料理 老華僑

 2.広東料理 上海系マフィア

 3.満洲料理 怒羅権(ドラゴン)・東北系マフィア

 4.点心 新華僑・福建マフィア

 5.台湾料理 新華僑・台湾マフィア

 これが彼ら華僑の認識であり、それゆえ食事に行く店はほぼ決めているという。また、価格帯によっても、こうした分類が可能な部分があり、歴史ある高級中華は老華僑が経営している店が多いそうだ。一方、格安食べ放題の店はやはり多くの人気を集めているが、中国マフィアから資金提供をされて営業を始めた店が多く、いかに安く仕入れて客を入れるかを重視しているため、美味しくない場合が多い、ともコメントを付け加えた。

 こうした格安店がよく入れ替わる原因は、資金繰りがうまくいかず、店を取り上げられるような形でオーナーが替わり、新たに華僑から資金提供を受け、新規開店するケースが多いとのこと。安さと集客のみに特化すると、リピーターが少なくなってしまい、結果として店の入れ替わりが激しくなるということなのかも知れない。日本と華僑、華人と関係する団体は数多く存在するが、全ての団体は正確な数字は出さなかった。

知られざる第二の“パリジェンヌ事件”

 そんな資金やバックの話などを中心に中華街の取材を進めていった筆者だったが、一般的には知られざる衝撃的な事件について知ることとなった。それを語ってくれたのは、同地における顔役の一人だという劉氏(仮名)という人物だ。彼に接触することに成功した筆者は「横浜中華街の裏側について伺いたい」と率直に切り出して交渉をすると、「あまり深く話せないけれど」と快諾してくれたため、指定された中華街の施設へと向かうことになった。

 そこで待っていた劉氏に、今回の取材の趣旨を改めて話すと、「中華街の裏側はあまりありませんが、かつては我々と地元組織が衝突しかけたことがありました。昔、歌舞伎町で起きた青龍刀事件やパリジェンヌ事件をご存知ですか?」と切り出してきた。

 この青龍刀事件とパリジェンヌ事件について説明したい。前者は、快活林事件とも呼ばれ、1994年8月、歌舞伎町で起きた事件である。当時区役所通り裏にあった中華料理店「快活林」で、上海系の中国マフィアが、北京系の中国マフィアを襲い、1名が死亡。青龍刀という物騒な武器が使われたとされる(一説には、実際に使われたのは青龍刀ではなく、刺身包丁やサバイバルナイフとも言われているが)この事件は、中国マフィアが歌舞伎町内で権勢を振るっていることを世間に印象付けたものであった。