日本の女性は60代から花開く

 何ごとも年齢制限はありません。思い立ったが吉日ですよ。日本人はすぐ年齢を気にして、「今さらはじめても遅い」などと言いますが、そんなことはありません。

 アメリカにグランマ・モーゼスという画家がいました。農家に生まれ、主婦として人生の大半を過ごしてきた彼女は、75歳から本格的に絵を描きはじめます。自然や農村の暮らしを描いた作品は多くの人を惹きつけ、アメリカの国民的画家として親しまれました。彼女は101歳で亡くなるまで描き続け、1600点以上の作品を残しています。だから、けっしてあきらめてはいけません。

 女の人はずっと「小さく小さく女になあれ」と育てられてきましたから、自分に自信がもてないのでしょう。なかなか一歩を踏み出せない人が多い。でも、自分を解放したら何でもできます。

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 私は46歳のときに自己解放ができたから、いろいろな表現に挑戦できているのだと思う。自分を解放してない表現ほどつまらないものはないですから。これはフェミニズムにも言えることです。誰かの言葉をこねくりまわしているだけではダメで、やはり自分の魂から出てくる言葉でなければ自由になれませんし、また相手に伝わりません。

田嶋陽子さん ©文藝春秋

 とくに性別役割分業に縛られていた日本の女性たちは、60代から花開くと思う。シングルの人は定年を迎えて仕事が一段落するでしょうし、離婚や死別を経験した人は夫から解放されたわけでしょう。

 シャンソンを習っている人のなかには、夫を亡くしてから、「やっと自分の好きなことができる」と教室に通いはじめた人もいます。せっかく自由になったのだから、誰にも気がねなく、したいことを思い切りやって、自分の人生を生きればいい。これから第2、第3の人生がいくらでも待っています。

 たとえ仲良し夫婦であっても、夫が定年を迎えたのなら、当然、妻の主婦業も「定年」です。それからの家事は半分ずつ分担すべきでしょう。

 私は定年退職した男には、せめて料理は習いに行きなさいと言っています。夫が毎日家にいるからといって、妻に朝昼晩と料理をつくらせるのは残酷です。夫と妻が交替で台所に立つようになれば、不公平感がなくなって、夫婦仲も良くなるかもしれません。そして、妻は自由な時間でやりたいことをやるのです。

 せっかく自由に生きられるようになっても、「いい年だからもう無理」とあきらめるのはもったいない。時間の使い方次第で、人生はいくらでも輝きます。「もったいない」は、人生にこそ使ってほしい言葉です。

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田嶋 陽子

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