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サッカー選手は走りの専門的なトレーニングを受けない

 一昨年末には谷川が勤務する筑波大での自主トレも公開。腿上げやバウンディングなどをはじめとした動きづくりのドリルトレーニングから、ラダーやミニハードルを使った軽めのスプリントトレーニングなどが公開された。

 実はこの時、少し意外なことがあった。

 それは、原口がやっていたトレーニングが本当に基礎的なものだったことだ。もちろん、細かな意識の持ち方やトレーニングの時期という理由もあるとは思う。だが、いわゆる陸上競技を“かじった”ことがある人間ならば、中学生でもやっているような動きづくりのドリルを行っていたのである。

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©JMPA

 さらに驚いたのは、その様子を普段サッカー専門に取材しているメディアの記者たちが、非常に物珍しそうに見ていたことだ。なんでも「サッカー選手のトレーニングで、こうした走りの動き作りのための練習を見たのは初めて」なのだそうだ。

 それはつまり、ほとんどのサッカー選手は日本代表クラスになるまで走りの専門的なトレーニングを受けずにくるということを意味している。これは少々、衝撃的な事実だった。

天性の足首を持ちながら潜在能力を発揮できなかった

 谷川コーチは、原口の能力についてこう語っている。

「彼は日本のトップスプリンターと同じかそれ以上の足首の強さを持っています。この足首のスティフネス=固さが一番の能力。これはどのスポーツでも活きるもので、足首が固ければ反発力を使って、短い時間で高く足を上げられる。もちろん鍛えられる部分もありますが、それは天性のものだと思います。車で言えば、ドライバーは鍛えられますけど、もともとついているタイヤは変えられないですからね」

コロンビア戦にはフル出場した ©JMPA

 逆に言えば、それだけのポテンシャルを持っていながら、原口は谷川コーチに出会うまでにその潜在能力を発揮できなかったということになる。これは実にもったいないことではないだろうか。もしも原口がサッカーの世界だけで生き、そのトレーニングだけに固執していたならば――ひょっとしたら今回のW杯での勝利もなかったかもしれない。