崇拝する松田聖子からのサプライズ
そんな時期、かつて仕事を辞めようと思っていたときにたまたま楳図かずおと出会ったように、またしても救いの神が現れる。NHK-FMで松田聖子を特集した特番に出演した際、サプライズで聖子本人が登場し、絶句して号泣する中川に、ディオールの香水を贈るとともに「あなたはたくさんの才能があるから楽しみにしているんですよ」との言葉をかけてくれたのだ。
直後には松本隆の作詞活動50周年を祝う日本武道館でのコンサートにも出演を依頼され、心がギリギリの状態のなか「綺麗ア・ラ・モード」を歌った。中川はのちにこのときのことを、《満身創痍で歌い終わったあと、松本先生が耳打ちで『すっごいよかったよ』と褒めてくださって。心が途切れそうになったりすると、何度でも神様が手を差し伸べてくれるんです。ターニングポイントとなる出来事は、痛みを伴うことが多い。でもその都度、私を見ていてくれる人はいるんだなと気づくことができる》と顧みている(『中川翔子写真集 ミラクルミライ』講談社、2022年)。
ミュージカル、一人暮らし…30代でさらに新たな挑戦
30歳になる直前には、事務所で「中川翔子の方向性について」と題して会議が行われ、今後は何か1本に絞ったほうがいいんじゃないかとの意見も出たという。しかし、「貪欲」を座右の銘に掲げてきた(ファンクラブも「貪欲会」と名づけた)中川には、1本に絞ることなど土台無理な話で、30代に入るとさらに新たなことに挑戦していく。
2016年には韓国で大ヒットしたミュージカル『ブラック メリーポピンズ』の日本版の再演で、ほかのキャスト4人が全員前回から引き続いての出演というなか、中川だけが新たに起用された。そんな事情もあり、公演直前には、《年上の女性から、“30代は楽しいよ”ってよく言われてたんですけど、実際に30歳になってみて、“こういうことだったのか”って思いました。20代までは、“若さ”が求められてきたけれど、アラサーになってからは、“スキル”が求められる。仕事がどんどん濃密になって、すごく刺激的です》と語っている(『週刊朝日』2016年4月22日号)。
このミュージカルに続き、その数年前から声優を務めてきたゲーム『ドラゴンクエスト』の舞台版にも出演した。舞台の仕事に合わせて体を鍛えるようになり、そのために環境を変えようと、生まれて初めて親元を離れて一人暮らしも始めている。
2019年には、劇場版アニメ『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』の主題歌「風といっしょに」を歌手の小林幸子と歌った。リリースイベントで各地を回ると、集まった子供たちから「しょこたん! しょこたん!」と熱烈なコールを受けたという。


