成田 時代に逆行してますね。

 横尾 完全に逆行してます。僕の作品自体も逆行してます。今はコンセプチュアルアート全盛の時代で、考えて考えてとことん考え抜いて作品を作っていくのが普通だけど、僕はとことん考えないんです。

 絵というと学芸員も含めて「何が描いてあるんですか?」と主題ばかり気にするんですけど、僕は「何を描くか」はどうでもよくて、「いかに描くか」に興味があるんです。自分でも何を描いているかわからないから描けるんですよ。ひたすら考え抜かない状態で、身体的なものだけになった時に絵が描ける。

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 成田 頭が空っぽのほうがいい?

 横尾 お金のこともそうですけど、みんな何かにつけて考えすぎるから悩む。僕は極力考えないことが僕の生き方だと思っていますから。

病院が好きな理由は……

 成田 描いてる瞬間に身も頭も委ねるのが大事ということですかね。

 横尾 瞬間と、そのプロセスが一番大事ですね。そこが楽しくて、快感のために描いている。

対談は横尾忠則氏のアトリエで行われた ©文藝春秋

 成田 すると金より体ですね。

 横尾 そうですね。一番大事なのは創作です。その創作ができる背景としての肉体とか、健康ですよね。それに僕は病院が好きだから、しょっちゅうチェックに行くんです。

 成田 私は病院の臭いが嫌いですが(笑)、なぜお好きなんです?

 横尾 病院は、僕という人間がどういう人間なのかを、肉体で教えてくれるんですよ。僕は自分という存在が何者であるかという精神的なアプローチには興味がなくて、肉体こそが僕だという考えなんです。体のどこが悪くてどこが悪くないのか、そういうことが全部、僕にとっては自分を知る「哲学」になる。

(構成 伊藤秀倫)

※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年6月号に掲載されています(横尾忠則×成田悠輔「僕は病院が好き。自分を知る「哲学」になるから」)。
全文では下記の内容をお読みいただけます。
・家に本は一冊もなかった
・「悟りに来ました」
・三島さんが抱えていた「箱」
・「デザインは終わった!」
・AIは大したことないですよ
・人間主義的でない方向へ

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