暴力団社会では、今回のような葬儀や組織のトップである組長が入れ替わった際の襲名披露などは「義理事」と呼ばれ、欠かすことができない最重要儀式とされている。

 警察当局の捜査幹部は、「通知を受けているにもかかわらず無断で欠席した場合は、敵対行為とみなす組織もある。通常はこのような無謀なことをする者はいないが」とその重要性を解説する。

葬儀に出席するために新幹線で新横浜駅に到着した6代目山口組の司忍組長(中央) 筆者撮影

 稲川会の組織としての会葬に先立って、4月26日には清田の出身母体である稲川会山川一家と、家族による葬儀が川崎市内の山川一家本部事務所で行われていた。こちらの喪主は清田の妻、施主は稲川会の現会長・内堀和也が務めた。

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 首都圏に拠点を構える指定暴力団の幹部が、清田の2度の葬儀についてこう解説する。

「4月の家族葬には稲川会の子分たちが集まったのだろう。この時の香典は葬儀で必要になった経費を差し引いて、遺族に渡されたはずだ。自分の親分が亡くなった際も、様々なお付き合いのあった方々からのお気持ちで頂いた香典を同じようにした」

「香典は数億円にのぼった可能性が高い」

 5月15日に行われた稲川会葬はまさに稲川会としての葬儀となり、他の組織の幹部などが駆け付け規模はけた違いになる。

「山口組や住吉会を含めた全国の親分衆が弔問に来る。それぞれに秘書役やボディガード、運転役なども含めれば数百人になるのではないか。香典は数億円にのぼった可能性が高い」(同上)

 巨額の香典について、国税当局の幹部が言及する。

「冠婚葬祭のご祝儀、香典などについては課税対象ではないことは一般的な慣習として定着している。一般国民がそうであるように、暴力団も同じだ。『納税したい』と申告するなら別だが。暴力団は何かしらの営利事業を行っていたとしてもそもそも納税していないので、そのようなことはまずない」

 前出の指定暴力団幹部が続いて家族葬との違いを指摘する。

「家族葬の香典は家族が受け取るが、稲川会葬の主催者は稲川会そのものなので、香典などは組織に入るだろう。会場周辺の警備、交通整理、弔問客の接待などは当然、すべて稲川会が組織として責任を持つことになる」

 かつては、東京都内であれば青山斎場など、著名人の葬儀が行われるような斎場で暴力団幹部の葬儀も盛大に行われていた。しかし、近年は暴力団が反社会的勢力として排除されるようになり、葬儀も大きく様変わりしたという。

1960年代に撮影された稲川会とみられる暴力団 (CPA Media Co. Ltd./UIG/時事通信フォト)

「銀行口座を作れない、賃貸マンションに住めない、スマホの契約を出来ないなど規制が厳しくなっているが、葬儀も同じだ。どれほど大きいヤクザの親分が亡くなったとしても、警察の手回しで葬儀場は使えないのが実態だ。稲川会ともなれば自前の稲川会館が大きいので、弔問客を迎えることができる。さすがに今回は誰からも文句が来ることはないのではないか」