わいせつ誘拐、準強制わいせつ、わいせつ略取未遂の罪で起訴された上司。しかし裁判の結果は「無罪」に。いったいなぜ? 2019年の事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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上司に睡眠薬を飲まされたB子さんの訴え
「何コレ?」
B子さんは会社に訴えた。
「B子さんが酒の中に睡眠薬を混入したのではないかと訴えている。一緒に飲みに行ったのか?」
「飲みに行ったのは事実ですが、睡眠薬は入れていません」
曽根崎が頑として否定するので、それ以上、会社としてもどうしようもなかった。
ところが、またも似たような被害者が現れたのだ。C子さんは曽根崎の直属の部下で、同じプロジェクトを担当していた。
C子さんの場合は、曽根崎と一緒に飲みに行って、青い色の酒を差し出され、「青くないですか?」と質問したことまで覚えていた。
その後、気が付くと電車に乗っていた。その間の記憶がまるでない。3人とも空白の時間が存在し、いずれも曽根崎と一緒に飲みに行ったときに発生しているのだ。
「これはおかしい…」
3人は警察に相談した。警察は1年がかりで立件にこぎつけた。曽根崎がラブホテルでA子さんの写真を撮っていたこと、常にバッグにハルシオンを入れていたことなどが判明した。
だが、曽根崎は容疑を認めず、「自分は何もしていない。言いがかりだ」と供述した。
「自分も酔っ払っていたので、飲んでいる途中から記憶がない。ハルシオンを入れたのか入れてないのかも分からない。ラブホテルに入った記憶もない。ホテルに行ったのはマズイと思った。自分は結婚しているし、職場の同僚だし。目が覚めてからは特に会話もなく、駅で別れた」
結局、曽根崎は3人に対するわいせつ誘拐、準強制わいせつ、わいせつ略取未遂の罪で起訴された。
公判になっても、のらりくらりとした答弁で言い逃れする曽根崎に対し、裁判長が直接尋問した。
「A子さんにどうやってここまで来たのか確認しなかったのか?」
「そこまで踏み込めなかった。なし崩し的に聞くことになった」
「あなたはA子さんに好意があったのか?」
「なかったです」
「じゃあ、A子さん側にあったと思う?」
「なかったと思います」