留置場の犯人の脱走を見逃し、「48日間の脱走劇」を許してしまった大阪府警の富田林署。犯人はその後、どうなったのか? そして、重大な失態を犯した警察にくだされた罰は? 実際に起きた事件や事故などを題材とした映画の元ネタを解説する新刊『映画になった恐怖の実話Ⅳ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
職質した警官も指名手配犯に気づかず
脱走に成功した樋田は富田林市に隣接する羽曳野市に徒歩で移動。そこで盗んだスポーツタイプの自転車で四国への逃走を図り、8月23日に瀬戸内しまなみサイクリングロード(広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約70キロの道路)を通過し、翌24日に同県松山市の道の駅に到着。ここで樋田に話しかけられたという男性によれば、「自転車で四国を一周する予定です。どこかにサイクルマップはありませんか?」と聞かれ、「愛媛県庁にあるはず」と答えたという。
樋田は親切に礼を言い、その日の夕方には県庁の自転車新文化推進課を来訪。職員からサイクルマップをもらい、さらに頼んで「日本一周中」と書かれたラミネート加工紙まで手に入れる。
25日、香川県観音寺市の道の駅で自転車で旅行中だった当時44歳の男性に「付いて行ったらダメですか? 仕事を辞めて日本一周をしようと思ってるんです」と声をかける。自分のことは和歌山出身の櫻井潤弥と名乗った。男性は申し出を快く引き受けたが、樋田には狙いがあった。サイクリストとして2人で行動することで周囲の疑いの目を逸らそうとしたのだ。
26日、男性と同県三豊市の寺へ。このとき、女性のお遍路から写真を撮らせてほしいと頼まれ応じる。拒否すれば怪しまれると思ったようだ。2人は28日にいったん別れ、樋田は単独で高知県に移動。
30日に同県須崎市の道の駅に立ち寄り、ここで思わぬピンチに見舞われる。「不審な男がいる」との通報を受けた高知県警の職員2人から職務質問を受けたのだ。このとき公衆トイレの裏でブルーシートを広げ座っていた樋田は「日本一周の途中で四国入りした。八十八ヶ所参りも兼ねている。今日はここで野宿する予定」とすらすら回答。警察官は特に怪しい点はないと、盗難車である自転車の防犯登録も確認せずに帰ってしまう。まさか、そこにいる男が逃走犯の樋田であるとは想像もしなかった。
9月2日、愛媛県庁を訪れ旅の報告をした翌日の3日、広島県三原市で前出の男性と再び合流。同県呉市の大和ミュージアムや広島市の原爆ドームなどを見て回った後、13日に山口県岩国市に入った。
釣りを楽しみ地元住民とも交流大阪府警は逃走犯・樋田の行方を掴めずにいた。目撃情報が寄せられた地域の防犯カメラの映像をくまなくチェックしたものの、大阪府内のカメラに樋田の姿はない。そこで警察は樋田が知人に「頼れる先輩が東京にいる」と漏らしていたと聞きつけ、捜査員を東京方面に派遣。しかも、このとき警察は樋田が変装している可能性もあるとみて女装バーなどで聞き込みを行う。
全く見当違いの捜査だった。
