一方、樋田は同行の男性と8月13日~17日まで岩国市のにしき川に架かる錦帯橋を観光するなどした後、18日にサイクリングの名所である同県周防大島町の道の駅「サザンセトとうわ」へ。道の駅の支配人も大の自転車好きだったことから意気投合し、そこで連泊し釣りを楽しんだり、道の駅の草むしりを手伝ったり、地元住民とも積極的に交流を図る。

 すっかり樋田らを気に入った支配人は、25日に自家製の「只今、自転車にて日本縦断中」と書かれたプレートを彼らに持たせて記念撮影まで行った。このころ、樋田は全国に指名手配され、テレビでも顔写真が公開されていた。が、後に支配人は、指名手配の顔と本人の顔が全く違ったことに加え、2人組だったことから一切疑いを持たなかったと語っている。

ウサギのタトゥーが決め手に

 劇中の主人公は最後、自分が犯人とされた殺人事件の鍵を握る女性が入所していた老人ホームに職員として入り、彼女から証言を聞き出そうとしているところ、突入した警察によって逮捕される。もちろん、実際の事件の結末は全く違う。

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 9月27日、樋田と男性は周防大島を離れ、上関の道の駅「上関海峡」に移動。ここでテントを張り2泊した後、29日夕方に周南市の道の駅「ソレーネ周南」に到着する。樋田はここで弁当や餅、菓子パンなどを盗み、外に出たところで声をかけられる。店内を密かに警備していた万引きGメンだった。Gメンがバックヤードに連れて行くと、樋田がひどく暴れ逃げようとした。なぜ、ここまで暴れるのかGメンは不思議に思い、警察に通報するとともに机でバリケードを築き樋田を逃さないよう努める。

 やがて現場に周南警察署員が到着し、捜査員の1人が樋田が必死に左足のふくらはぎを押さえているのに気づいた。不自然な行動に何かを隠しているものと確信し手をどかせると、そこに現れたのはウサギのタトゥー。それは指名手配書に記載されていた樋田の特徴で、この万引き犯こそが警察から逃走した樋田淳也本人であると発覚した。脱走から48日目の逮捕劇だった。

写真はイメージ ©getty

 実はこのとき、同行の男性も逮捕されている。彼が乗っていた自転車が和歌山県橋本市内で盗まれたもので、占有離脱物横領容疑だった。が、処分保留でほどなく釈放。男性は記者会見を開き、樋田について「常にサングラスをかけていた。温泉に入る際は(タトゥーを隠すため)足にテーピングしていた」「必要のないものまで買っており、とても日本一周はできないだろうと思った」「日本一周をしている人に迷惑だ。それが一番腹立たしい」などと語った。