「幸せの黄色いハンカチ」という映画があった。1977年の山田洋次監督作品。高倉健と倍賞千恵子、一軒家の竿にたなびく黄色いハンカチの名ラストシーン。
稲城長沼の駅前にある立ち食いそば屋「なかむら」に行くと、なぜかいつもこの名ラストシーンを思い出してしまう。
駅前広場にぽつんと立つ立ち食いそば屋
JR南武線は通勤通学ギャンブルの電車としていつも混雑している。稲城長沼駅は快速電車で登戸駅の次の次の停車駅である。数年前は小さな駅舎だったが、今は高架工事も終わって立派な駅になった。これから、公的施設の移転や駅周辺の開発が進んでいくのだろう。
「なかむら」は駅改札を出たすぐの駅前広場で営業している、ぽつんと一軒の立ち食いそば屋だ。太陽がまぶしく、白い暖簾が風にゆれている。改札を出るとすぐ、『ああ、今日は営業している。よかった』とわかるロケーションだ。
かつて駅前北側には古い居酒屋や八百屋、喫茶店があった。「なかむら」も20年以上前から駅前の商店が並ぶ一角で営業していた。
高架工事や駅前の再開発に伴い、一店舗ずつ店がなくなっていった。そして遂には「なかむら」一軒だけが仮店舗として残ったというわけである。
駅前なのに立ち食いそば屋が一軒だけ。こんな光景はなかなかみることはできない。「そば鉄」にはたまらないネタになっているはずだ。
夏到来を告げる「冷やし天ぷらそば」が登場
「なかむら」では5月の終わり頃になると、夏到来を告げる人気メニュー「冷やし天ぷらそば」が登場する。これを食べないと夏を迎えられないくらい、おいしく涼しげなメニューである。
梅雨入りした晴れ間のみえる土曜の昼前、久しぶりに店に行くと、大将の娘さんだろうか、ひとりで切り盛りされていた。挨拶して、さっそく「冷やし天ぷらそば」380円を注文した。店にはジャージを着た若い女子や電線工事のおじさんなどが入れ替わりやって来ては、そばを手繰っている。