「集合ニッチ」戦略
日本企業の世界市場のシェアの取り方は2つのパターンがあります。
第1は、大企業1社で複数の市場シェアを支配するパターンです。たとえばJSR(旧日本合成ゴム)は、フォトレジスト(半導体製造の必須素材)と偏光板フィルム(液晶パネル用)で世界的リーダーとなっています。
第2は、複数の日本企業で市場シェアを支配しているパターンです。たとえば、医療用内視鏡は、オリンパス、ペンタックス、富士フイルムを合わせると、シェア80%以上、特殊内視鏡のシェアは100%を占めています。
私はこうした日本企業の戦略を「集合ニッチ戦略」と名付けました。
国際比較をすると、中国は75%以上のシェアを支配している品目はわずかです。台湾は60%以上を支配している品目はありません。韓国も、有機ELディスプレイ(世界市場の98%)を除けば、そうした品目はありません。
日本企業が市場をほぼ支配している分野を具体的に挙げると、まず三菱化学、三菱マテリアル、三井化学、AGC(旧旭硝子)、旭化成、信越化学工業、デンカ、DIC、東レ、クラレ、東京応化工業など、先端化学品の分野です。たとえば富士フイルムは、映画用などの各種画像光学用フィルム、医療用フィルム、医療機器などのグローバル市場のリーダーです。JSRも、四日市の合成ゴム事業を完全に売却し、半導体製造に使うフォトレジストやエレクトロニクス用ファインケミカルなど先端化学材料に集中特化しています。
鉄鋼部門でも日本は依然、世界をリードしています。日本製鉄とJFEスチールは特殊鋼部門で他の追随を許していません。
精密機械やロボット分野では、ファナック、村田製作所、キーエンス、オムロン、東京エレクトロンなどが先頭を走っています。
医薬品の分野では、武田薬品工業、アステラス製薬、小野薬品工業が世界ランキングの上位に入っています。
ウシオ電機は液晶パネル光洗浄装置、THKはLMガイド(直線運動案内)、ダイキン工業は空調事業の分野で、強い競争力を発揮しています。
私たちが日常的に使う自動車から、飛行機、携帯電話、パソコン、電動歯ブラシまで、ほぼすべての製品が「ジャパン・インサイド」なのです。「ジャパン・インサイド」の表示を見かけることはありませんが、製品の品質向上のために欠かせない日本製の原材料や部品が用いられているのです。
※本記事の全文(約7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年6月号に掲載されています(ウリケ・シェーデ「BtoBダントツの日本企業」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・米国基準の悲観論
・「スピード」より「安定」を選択
・「ジャパン・インサイド」戦略
・スマイルカーブ
・日本は化学分野でなぜ強い?
・「安全第一」の日本の消費者

出典元

【文藝春秋 目次】緊急特集 黒船トランプ迎撃作戦 トランプ危機をチャンスに変えろ/スペシャル企画 東京はすごいぞ/梯久美子 やなせ先生と「あんぱん」と私
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2025年5月10日 発売
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