例えば第2話では、お客さんとしてやってきたプラスサイズモデルの三葉凛子の願いを叶えるためにユイナたちが歌おうとした瞬間、アズは歌うことを拒否し「アズ、デブ嫌い!」「今の自分に悩んでるって、楽して痩せようとしててウザい! ホント無理!」と言ってエンドロールに入る。

 突然のアズの暴言に視聴者は戸惑うのだが、エンドロールが終わった後、家で「アズ、デブ嫌い」と泣きながら言う現実の太っているアズの姿が映る。

 そして第3話では、お店でのアズの姿が魔法で一時的に痩せていたことが明らかとなる。

ADVERTISEMENT

アズのコンプレックスを爆発させるきっかけになる、プラスサイズモデルの三葉凛子 公式Xより

 アズは太っていることを理由にクラスメイトから酷い悪口を言われ、現在学校に通っておらず、魔女になることで痩せようと考えていた。

 つまりこの2~3話では、人を外見だけで評価し差別する価値観を多くの人が内面化しているルッキズムの問題がアズと凛子の姿を通して描かれるのだが、このエピソードを序盤に持ってきたこと自体に作り手の強い覚悟を感じた。

 その後、4~5話では、マイと幼馴染の優愛の「推し活」的な共依存関係が描かれ、6~7話では、よく仕事中に眠ってしまうチョコが、父親を亡くし看護師として家計を支える母に代わり、足を傷めている祖母と兄弟の面倒を見ながらバイトと家事に追われるヤングケアラーだったことが明らかとなる。

 どのエピソードも現実の少女たちが直面している身近で切実な問題を描いているのだが、アニメでは深く掘り下げられることが少ない題材だ。

「アズ、デブ嫌い!」「ふざけんな、ババア」視聴者をヒヤヒヤさせるCパート

『前橋ウィッチーズ』では、本編映像となるAパート、Bパートの他に、エンドロールの後に少しだけ流れるCパートが存在する。このCパートの切れ味が素晴らしく、次の週で焦点が当たる少女たちの台詞や振る舞いが強い引きとなっている。

「ふざけんな、ババア」の一言で視聴者を一週間凍りつかせたチョコ 公式Xより

 ユイナたち5人が延々とボケとツッコミを繰り返す楽しい会話劇だけの回もあるのだが、今日は楽しかったと安心しているとCパートで冷水をぶっかけられるような辛いシーンが描かれ、次週に続くため、毎回ヒヤヒヤさせられる。

 その意味で実にあざとい脚本なのだが、露悪趣味の残酷ショーに陥っていないのは少女たちの悩みに作り手が大人として誠実に向き合い、彼女たちが自分なりの回答を模索する姿を前向きに描いているからだろう。