常に文学の最前線を走り続ける古川日出男さんが作家デビュー20年を迎えた。今年2月に長編『ミライミライ』を刊行。巨大国家に組み込まれた日本を舞台に1940年代から現代までの青春、そして音楽が描かれる。これまでの古川さんの作品を眺めると長編作品が並ぶ。これは古川さんの好みなのだろうか?
「自分でも長編ばかりを沢山書くなあと思います。頭に浮かんだ世界をまるごと書きたいので自然に長くなるんです。それといま大長編小説が珍しくなったでしょう? 長い物語を読むのは面白いのにね。だから敢えて書店で分厚い本を手に取らせて『どうしよう』って思わせる〈読者の壁〉になりたいです(笑)」
現在は「どんどん書けるし、キータッチも速すぎると驚かれる」と話す古川さんも、デビュー時は書きあぐねて悩んだそうだ。
「毎日書く目標を決めて手帳に丸印をつけてたんですが、半丸しかつかない。行き詰まると友達の勤め先まで電話をかけて『足の指がなんか変!』とか相談したり(笑)。あの頃は神経が参ってましたね」
2010年には年3冊を上梓、自作の朗読イベントを開催するなど精力的に活動した。が、翌年の東日本大震災に福島出身である古川さんは強い衝撃を受けたと語る。
「震災によって僕らの言葉にも揺れが起きてしまった。直後は失語状態でしたが、年の暮れ、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を死者への鎮魂の思いを込めて朗読劇にしたんです。最初に賢治の言葉があり、それを脚本にする過程では僕自身が輸血を受けるような感覚を覚えました。今年も上演しますが、85年前に死んだ賢治が〈いま〉の存在になっている気がします」
13年には故郷・郡山市で「ただようまなびや 文学の学校」を開催。震災後の〈違和感〉に端を発するそうだ。
「震災について紋切り型にしか語られなくなった。それに抗いたくて開校しました。最終講義に村上春樹さんを誘ったら本当に来て下さった。サプライズにしようと内緒にしてたら、村上さんが前日から見学に来ちゃったのでバレバレ(笑)。外部に漏れると騒ぎになるから、200人の受講者と『SNSに書かないで』って約束しました。すると誰一人として書き込みをしなかった。一つの共同体になれたんだって思えて嬉しかったですね」
作家生活20年の中で〈震災後〉に向き合い続ける。
「いまも先行きが見えない、着地点がない日常です。だけど、それが辛いけどやり甲斐もある。アクションを起こすことで文学を〈広げ〉られるから。新しいフェーズにいて、あそこに面白い変なヤツがいるって思ってもらえたらいいですね」
INFORMATION
『佐々木敦による古川日出男インタビュー集(仮)』(ele-king books)
7/31刊行予定
朗読劇『銀河鉄道の夜』世田谷美術館公演
9/29・30 上演予定
ふるかわひでお/1966年、福島県出身。98年、長編小説『13』で作家デビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞、日本SF大賞、06年『LOVE』で三島由紀夫賞、15年『女たち三百人の裏切りの書』で野間文芸新人賞。その他に『ベルカ、吠えないのか?』など著書多数。