西野監督の強烈な「リアリスト」の一面
強豪国には独自のスタイルがあり、それが問題点の修正の足かせになっていることが多い。ロシアW杯でのスペインは非常に攻撃的だが、守備の意識が薄く、いまだに修正できていない。自分たちのスタイルで勝ち抜く自信があるのだろうが、そのためには相手を圧倒するだけの力がないと難しい。2010年の南アフリカの時にはその力があったが、今は選手たちが本当にそれを感じているかどうか微妙だ。
西野監督も本来は、攻撃的サッカーを志向し、攻撃的なスタイルが好きだ。
だが、何がなんでも攻撃的に行くというわけではない。ガンバ大阪の後、ヴィッセル神戸で指揮を執った時は、選手のプレースタイルやチームスタイルを見て、カウンター主体のサッカーでチーム作りを進めていった。
今大会、もし時間的な余裕があれば、攻撃的なチーム作りを進めていっただろう。だが、時間がない上にW杯では勝たなければならない。それには、自分たちのスタイルを確立するよりも相手の情報を分析し、ウィークポイントを突くサッカーの方が効率よく、勝てる戦い方ができる。
あまり表情を変えず、淡々とした物言いとは異なり、そこに西野監督の強烈な「リアリスト」の一面を垣間見ることができる。そして、そのやり方は1996年のアトランタ五輪の時から基本的に変わっていない。
「自分たちのサッカー」でないサッカーは、強い
また、西野監督は「魔法の言葉」を駆使する。
2005年Jリーグ最終節前、ガンバ大阪は千葉に敗れ、2位に陥落した。最終戦の川崎戦の前のミーティングで「次、勝てば優勝できるぞ」と選手の前で語った。その言葉を聞いて宮本恒靖らは何の疑いもなく、そう思えたという。そして、最終戦の川崎戦に勝ってリーグ戦初優勝を果たした。今回のコロンビア戦でのハーフタイム、引き分けでもいいと思っていた選手に対して「勝てる。勝ちにいくぞ」と檄を飛ばした。選手たちは、それに乗せられたように後半、2点目を取りに行き、大迫勇也の決勝ゴールで勝利した。
何かのタイミングに発する西野の言葉は、選手の勇気ややる気に直結する。
ロシアW杯に「自分たちのサッカー」はない。
スペインやブラジルのようなスタイルもない。
限られた時間内で最善の結果を生み出すことに専念した西野流のリアリスト・サッカーは、まだ負けなしだ。
自分たちのサッカーではないサッカーはスタイルにとらわれないゆえに、強い。